《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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百首歌奉りし時
藤原定家朝臣
駒(こま)とめて袖うちはらふ陰(かげ)もなし佐野(さの)のわたりの雪の夕暮(ゆふぐれ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
百首の歌を差し上げた時
藤原定家朝臣
馬をとめて、
雪の降りかかった袖をはらう物陰もない。
佐野のあたりの雪の夕暮よ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1200年、後鳥羽院が主催された
「正治二初度百首」にて、歌を献上しました。
作者;藤原定家
今、この佐野のあたりには
雪が降っていて
馬をつなぐ人の姿も見えないし、
袖を払い清める人影も見えません。
雪が降る夕暮れ時に
川を渡る場所のある
佐野のあたりの光景を見ていると
(源平合戦で命を落とされた
安徳天皇のことが思い出されて)
涙がこぼれます。
(安徳天皇の一行は)
人目につかないところで
木と木の間に小馬を繋ぎ止め、
神仏に祈って身の穢れを清め、
災いを取り除くための
隠れ場所さえもなかったのでしょう。
雪が降る夕暮れ時に
川を渡るこの場所の光景を見ていると
雪のように大粒の涙がこぼれて
目の前が暗くなることですよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌は
「正治二初度百首」で詠まれていますので
安徳天皇の崩御を言っているのではないかと
思われます。
藤原定家:1162年〜1241年8月20日(享年80)。
安徳天皇:1178年11月12日〜1185年3月24日。
(享年満6歳4ヶ月)。
後鳥羽天皇:1180年7月14日〜1239年2月22日(享年60)。
在位:1183年8月20日〜1198年1月11日。
高倉天皇の第四皇子。
後白河天皇の孫。安徳天皇の異母弟。
こま:小さい馬。小馬。馬。双六や将棋のこま。
こま:木と木の間。
こま:高麗。高句麗。
とむ:行かせないようにする。進ませない。止める。制止する。後に残す。とどめる。停泊させる。宿泊させる。
そで:袖。
うちはらふ:塵などを払いのける。払い清める。追い払う。
はらふ:取り除く。はらいのける。掃除する。掃き清める。追い払う。平定する。
はらふ:神に祈って身の穢れを清め、災いを取り除く。お祓いをする。
かげ:人やものの後方。物陰。隠れ場所。人目につかないところ。恩恵。おかげ。庇護。
かげ:光。姿。形。水面や鏡にうつる姿、形。面影。影法師。痩せ衰えた様子。やつれた姿。虚像。幻影。影のように寄り添って離れないもの。死者の霊魂。
かけ:結びつけること。口に出して言うこと。
かけ:馬に乗って走らせること。
さの:和歌山県新宮市佐野。木ノ川の沿岸。
さののわたり:川を渡る場所。
わたり:付近。あたり。ほとり。人。お方。人々。
わたり:渡し場。来訪。訪問。移転。舶来。かけあい。交渉。直径。
わたる:超えて行く。過ぎる。通る。行く。年月が過ぎる。またがる。両岸にかかる。広く通じる。いらっしゃる。おいでになる。長い間ずっと〜し続ける。一面に〜する。
ゆき:雪。涙。逝く。行く。
ゆふ:夕方。
ゆふ:結ぶ。しばる。ゆわえる。髪を結ぶ。髪を整える。組み立てる。
くる:目の前が暗くなる。目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れ惑う。理性がなくなる。
くる:日が暮れる。年や季節が終わる。
くる:与える。やる。くれる。
くる:たぐる。順に送る。順にめくる。
くれ:来れ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
正治二初度百首