《新古今和歌集・巻第六・冬歌》

 

664

雪の朝(あした)に、後徳大寺左大臣のもとに遣はしける

皇太后宮大夫俊成

今日(けふ)はもし君(きみ)もや訪(と)ふとながむれどまだ跡(あと)もなき庭の雪かな

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

雪の朝に、後徳大寺左大臣の所に送ってやった歌

皇太后宮大夫俊成

今日は、ひょっとして、

君が訪れてくださるかもしれないと思って、

しみじみ見つめていますけれど、

まだ、誰の人跡もない庭の雪であることです。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;雪の朝、藤原実定のもとに

歌を詠んで持って行ってもらいました。

 

作者;藤原定家

 

 

あなた様(後徳大寺左大臣(藤原実定))は、

左大臣に就任されたあと、

病気がちになられました。

 

今日はひょっとして

体調やご気分をうかがいに

お見舞いに行けるかもしれないと思っています。

 

後鳥羽天皇も

あなたの体調を心配して

お見舞いに来られ、

去就を問われるのではないでしょうか。

 

あなたが左大臣を退いたあと、

三男(公継)を参議にして

跡取りにされようとお考えなのですね。

 

しかしまだ、

跡取りがどうなるか決まっていません。

 

庭を眺めてみましたが

雪に

まだ何の跡もついていません。

 

跡取りについても

この先の人事がどうなるのか

まだ分からないようですね。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

664番は、定家から

病気がちな後徳大寺左大臣への問いかけ。

次の665番が返事の歌です。

 

藤原定家:1162年〜1241年8月20日(享年80)。

 

徳大寺(藤原)実定:1139年〜1191年閏12月16日(享年53)。

1189年7月から左大臣(後鳥羽朝)

左大臣就任後、病気がちになる。

三男、公継の参議任命を望んでいた。

1191年6月から病のため出家。

1191年7月、公継が参議に任命される。

実定の和歌活動は平家との政治的競合に敗れて

散位に留め置かれ、沈淪を余儀なくされた

1165年〜1177年の頃に集中している。

晩年は作歌にあまり精力的ではなかった。

近衛天皇、後白河天皇、二条天皇、六条天皇、

高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇に仕えた。

 

 

けふ:今日。

げふ:仕事。職業。

 

もし:仮に。もしも。ひょっとしたら。もしかして。

もじ:字。言葉。用語。文章。学問。

 

きみ:君主。天皇。主人。お方

きみ:香りと味。風味。趣。気持ち。気分。

 

とふ:尋ねる。聞く。様子や安否を尋ねる。問いただす。詰問する。訪問する。見舞う。弔う。弔問する。

とぶ:空中を舞う。飛び上がる。跳躍する。走る。

 

ながむ:もの思いにふける。ぼんやりと見やる。遠方を見渡す。遠くを見る。

ながむ:口ずさむ。詩歌をつくる。

ながめ:長雨。

 

まだ:まだ。いまだ。

 

あと:後ろ。後方。背後。のち。以後。死後。

あと:足の方。足元。足跡。往来。行く先。行方。形跡。痕跡。遺跡。先例。しきたり。手本。筆跡。筆のあと。家の跡継ぎ。形見。

 

なき:無き。泣き。鳴き。亡き。

 

には:庭園。物事が行われる場所。海面。海上。水面。

 

ゆき:雪。涙。逝く。行く。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

長秋詠藻

林下集