《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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題知らず
法性寺入道前関白太政大臣
さざなみや志賀(しが)の唐崎(からさき)風冴(さ)えて比良(ひら)の高嶺(たかね)に霰(あられ)降るなり
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
法性寺入道前関白太政大臣
志賀の唐崎は風が寒く吹いて、
比良の高嶺に霰が降っているようだ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;亡くなった人に捧げる歌
作者;藤原忠通
昔、大津宮があった志賀の楽浪(さざなみ)に
小さな波がたっています。
風が冷たく吹き、
しんしんと冷え込んでいます。
比良の山の高いところでは
あられが降っているようですね。
亡くなったその方は、
最初、
ほんの小さな風邪かと思われたのに、
残酷にも
命が危険な状態となり、
亡骸となられました。
高い山=皇居
では、
人々が大きな泣き声をあげています。
その涙は
あられのように
冷たく凍りついています。
心まで
凍りつかせるような
冷たい涙が
こぼれ落ちていますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
法性寺入道前関白太政大臣:
藤原忠通:1097年1月29日〜1164年2月19日(享年68)。
堀河天皇、鳥羽天皇、崇徳天皇、近衛天皇、後白河天皇に仕えた。
1107年、白河法皇の猶子となる。
1129年1月:太政大臣(崇徳朝)
1129年4月:関白を辞す
1142年1月:関白を辞す
さざなみ:小さな波。琵琶湖の西南沿岸一帯を「楽浪(ささなみ)」といったことから、「志賀」などにかかる枕詞。
ささ:小さい。少しの。酒。笹。これこれ。しかじか。
なみ:並ぶ。列。並みの。波のような動きをするもの。しわ。
み:身。命
しが:琵琶湖の西南沿岸一帯。667年、大津宮が置かれたが、数年で廃都となった。
からさき:歌枕。滋賀県大津市唐崎。琵琶湖の西岸で、「唐崎の夜雨」は近江八景のひとつ。祓えの場所でもある。和歌では「松」「月」「秋風」などを詠み込んだものが多い。
から:ため。ゆえ。
から:中国、朝鮮半島。
から:外殻。抜け殻。死体。亡骸。
からし:塩辛い。しょっぱい。つらい。せつない。むごい。残酷だ。苦しい。いやだ。不快だ。みっともない。危ない。危うい。(悪い意味で程度が)並々ではない。ひどい。
さき:先端。先頭。先陣。末端。前方。第一。上位。前。将来。前途。行く末。以前。過去。先ばらいをする人。
さき:幸い。幸福。栄えていること。
さき:岬。山や丘が平地に突き出た部分。
かぜ:風。風邪。風習。ならわし。伝統。
さゆ:しんしんと冷える。冷え込む。凍る。音や光などが澄み切る。冴える。
ひら:滋賀県、琵琶湖南西沿岸にある山。
ひら:薄くて平たいもの。紙、木の葉など。
ひら:平らだ。
たかね:高い嶺。高い山。
たか:高い、大きい、立派なの意。
たか:最後に行き着くところ。とどのつまり。あげくのはて。
たが:誰の。誰が。
たかし:高い。高貴だ。優れている。自尊心がある。気位が高い。広く知られている。評判が高い。時間的に遠い。年月がたっている。老いている。
ね:音。鳴き声。泣き声。
ね:植物の根。根本。もと。
ね:山の頂上。みね。
あられ:冬、空中の水蒸気が凍ってできる小さい氷の塊。夏は、ひょう。
あられぢ:模様の名。あられのような細かい模様を織り出したもの。
あり:存在する。いる。ある。生きている。その場にいる。居合わせる。時間が過ぎる。経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。
ふる:泣く。降る。古くなる。振る。震る。
なり:〜の音(声)が聞こえる。〜ようだ。〜らしい。〜とかいう。〜そうだ。〜ようだ。
なり:職業。
なり:かたち。形状。格好。身なり。服装。様子。ありさま。
なる:生まれ出る。生じる。実がなる。実る。
なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。時や場所に達する。おいでになる。おでましになる。
なる:よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。
なる:営む。
なる:慣れる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。