《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
630
百首の歌奉りし時
守覚法親王
立ち濡(ぬ)るる山の雫(しづく)も音(おと)絶えて槙(まき)の下葉(したば)に垂氷(たるひ)しにけり
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
百首の歌を差し上げた時
守覚法親王
たたずんで濡れていた山の雫も、
いつしか音が聞こえなくなって、
槙の下葉に氷柱ができたことだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1200年、後鳥羽院が主催された
「正治二初度百首」にて、「冬の歌」として
詠みました歌
作者;守覚法親王
その方(安徳天皇のことか?)の命が
天国に旅立って逝かれたとき、
人々は泣きに泣いて
陵(墓地)で
立ったまま涙に濡れていました。
陵の山からこぼれ落ちてくる
涙の雫や
泣き声も
今は途絶えて
聞こえなくなりました。
常緑樹である槙の
下の方の葉っぱに
=
永久不変を表す天皇の
家臣や庶民の周囲に
凍った涙がつららとなって
垂れ下がっておりますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
629、630番は
守覚法親王が「正治二初度百首」で詠んだ歌が
続いて掲載されています。
安徳天皇の崩御のことを言っている
可能性があります。
守覚法親王:1150年3月4日〜1202年8月26日(享年53)。
父は後白河天皇。母は、藤原成子。
式子内親王は、同母姉。
1202年、仁和寺喜多院で死去。
安徳天皇:1178年11月12日〜1185年3月24日(享年8)。
在位:1180年2月21日〜1185年3月24日。
立太子:1178年12月15日。
歴代で最も短命な天皇。戦乱で落命。
高倉天皇の第一皇子。
後鳥羽天皇は、異母兄。
たつ:足で立ち上がる。起立する。現れる。立ち上る。飛び立つ。出発する。幻がはっきりと見える。時期がくる。時間が過ぎる。音や声が高く響く。評判になる。名声があがる。乗り物が止まっている。位につく。刃物が切れる。設ける。設置する。立たせる。生じさせる。起こす。
たつ:切り離す。断ち切る。習慣をやめる。
たつ:布を切る。
ぬる:濡れる。寝る。
ぬる:完了の助動詞。
たちぬる:立ったまま濡れる。濡れながら立つ。
やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。重要な段階。
しづく:水滴。涙。
しづく:沈む。深く沈んでいる。水面に映る。映ってみえる。
しつく:し慣れる。やりつける。し始める。作りつける。嫁がせる。一人前にする。しつける。
くも:雲。雲のように見えるもの。心が晴れないこと。心のうれい。うっとおしいこと。火葬の煙。死ぬこと。
おと:弟、妹。末っ子。
おと:物音。響き。声。鳴き声。評判。うわさ。便り。おとさた。
たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。
たへ:神秘的なほどに優れている。霊妙だ。上手だ。巧妙だ。
たふ:じっと耐える。こらえる。我慢する。もちこたえる。能力をもつ。すぐれる。
まき:巻物
まき:立派な木。常緑樹
まく:枕とする。枕にして寝る。抱いて寝る。一緒に寝る。結婚する。
まく:巻きつける。巻き上げる。丸める。
まく:撒き散らす。植物の種を植える。
した:下部。下の方。地位や身分が低いこと。若いこと。能力が劣ること。内部。内側。内心。心のなか。
したば:下の方の葉。
したはう:心の中で思う。人知れず思う。ひそかに恋しく思う。
したふ:木の葉が色づいて赤く照生える。
したふ:慕って後を追う。恋しく思う。懐かしく思う。ついて学ぶ。師事する。
たるひ:つらら
ひ:太陽。日中。昼間。一日。〜の期日。天候。天気。空模様。天照大御神。天皇。皇子。
ひ:炎。明かり。ともしび。炭火。火事。のろし。
ひ:氷。氷雨
たるみ:垂れ落ちる水。滝。
たる:垂れ下がる。ぶら下がる。したたる。したたらす。神仏が恩恵を現し示す。
たる:十分である。相応する。価値がある。値する。満足する。
しに:死に。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
正治二初度百首