《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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上(うへ)のをのこども菊合(きくあはせ)し侍りけるついでに
延喜御歌
しぐれつつ枯れゆく野べの花なれど霜の籬(まがき)ににほふ色かな
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
殿上人たちが菊合をしましたついでに
延喜御歌
時雨が降り出して、
枯れていく野辺の花であるが、
霜の置く籬に、
色美しく咲き続けていることよ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;醍醐天皇に仕えている男性たちが
「菊合わせ(菊に和歌を添えて優劣を競った)」を
行った折りに、詠みました歌
作者;醍醐天皇
若くして
この世を離れていったあの人(妹か皇女)は
野辺に咲く花のように
色香が漂う美しい女性でした。
野辺に咲く花は
時雨に濡れながら枯れていきます。
同じように
私も大切な人を亡くし、
時雨が降り続けるように
しきりに涙に濡れています。
どんなに泣いても
あなたは
この世を離れて
天国に逝ってしまわれたのです。
霜が凍りついた垣根には
あなたの香りが今も匂っておりますよ。
霜のように凍った涙が
あなたの艶やかな美しさを
思い出させ、
そこに留めてくれているようです。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌は
「花」や「にほふ」などのワードから
女性のことを言っていると感じます。
延喜(897年〜930年)の御代に
醍醐天皇周辺で逝去された女性は、
下記のとおり、複数おられます。
この歌は、
「冬の歌」に所収されていますので、
10月に逝去された君子内親王(醍醐天皇の妹)か、
11月に逝去された恭子内親王(醍醐天皇の皇女)のことを
うたっている可能性が高いと思われます。
醍醐天皇:885年1月18日〜930年9月29日(享年46)。
在位:897年7月3日〜930年9月22日。
宇多天皇の第一皇子。
君子内親王:892年〜902年10月8日(享年11)。
父は、宇多天皇。醍醐天皇の妹。
藤原温子:872年〜907年6月8日(享年36)。
宇多天皇の女御。醍醐天皇の養母。
均子内親王:890年〜910年2月25日(享年21)。
父は、宇多天皇。醍醐天皇の妹。
恭子(きょうし)内親王:902年〜915年11月8日(享年14)。
醍醐天皇の皇女。
宣子内親王:902年〜920年閏6月9日(享年19)。
醍醐天皇の皇女。
慶子内親王:903年〜923年2月10日(享年21)。
醍醐天皇の皇女。
ついで:順序。次第。順番。機会。折り。場合。
ついで:次に。引き続いて。それから間もなく。
ついでに:それを機会に。この機会に。その折りに。
しぐる:時雨が降る。涙に濡れる。涙ぐむ。
くれ;なにがし。だれだれ
くる;目がくらむ。涙で目が見えなくなる
くる;日が暮れる。終わる。すぎる
くる;くれる。与える。糸を繰る。
つつ:伝える。ことづける。
つつ:何度も〜して。しきりに〜して。繰り返し〜して。〜続けて。ずっと〜して。〜ながら。それぞれ〜して。〜にもかかわらず。〜ことだよ。
かり:一時的なこと。間に合わせであること。かりそめ。
かり:雁。霊魂を運ぶ鳥とされる。
かり:狩り。鷹狩り。桜狩りやもみじ狩り。
かる:枯れる。干からびる。干上がる。涸れる。
かる:離れる。遠ざかる。間をあける。隔たる。足が遠くなる。疎遠になる。よそよそしくなる。
かる:草などを切り取る。
かる:借りる。
かる:追い払う。追い立てる。馬などを走らせる。
いく:生きる。生存する。生きながらえる。助かる。花を生ける。
いく:行く。移動する。赴く。立ち去る。通り過ぎる。
ゆく:流れ去る。経過する。死ぬ。亡くなる。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。
のべ:野のあたり。野原。
のべのけぶり:火葬の煙。
はな:花。薄い藍色。華やかないこと。栄えていること。うつろいやすいこと。上辺だけの美しさ。芸の華やかさ。祝儀。
はな:先端。末端。はし。
はな:鼻。鼻水。風邪。
はなつ:身から離す。手放す。自由にする。逃がす。あける。開く。発する。矢をいる。火をつける。除外する。追放する。流罪にする。
なる:生まれる。生じる。実ができる。実る。
なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。達する。おいでになる。おでましになる。
なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。使い古す。くたびれる。
なる:生業とする。
なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。
なる:断定。伝聞推定
しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。
しも:霜。白髪のたとえ。
しも:〜なさる。
しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。
まがき:竹や柴で作った垣根。
まが;悪いこと。災い。
がき;餓鬼。
にほふ:染まる。美しく染まる。赤く映える。艶やかに美しい。良い香りがする。香気が漂う。恩恵が及ぶ。恩恵で栄える。美しく色付ける。染める
おふ:成長する。伸びる。生じる。
生える。
おふ:似つかわしい。ふさわしい。似合う。背負う。身に備える。こうむる。
おふ:追いかける。後を追う。目指していく。追い出す。
いろ:色合い。禁色。喪服。顔色。表情。美しい容姿。華やかな色艶。気配。様子。やさしさ。思いやり。恋愛。女性。恋人。
いろ:天皇が父母の喪の初めの十三日間こもる仮宿。
いろか:色と香り。女性の艶やかな美しさ。