《新古今和歌集・巻第六・冬歌》

 

621

上(うへ)のをのこども菊合(きくあはせ)し侍りけるついでに

延喜御歌

しぐれつつ枯れゆく野べの花なれど霜の籬(まがき)ににほふ色かな

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

殿上人たちが菊合をしましたついでに

延喜御歌

時雨が降り出して、

枯れていく野辺の花であるが、

霜の置く籬に、

色美しく咲き続けていることよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;醍醐天皇に仕えている男性たちが

「菊合わせ(菊に和歌を添えて優劣を競った)」を

行った折りに、詠みました歌

 

作者;醍醐天皇

 

 

若くして

この世を離れていったあの人(妹か皇女)は

野辺に咲く花のように

色香が漂う美しい女性でした。

 

野辺に咲く花は

時雨に濡れながら枯れていきます。

 

同じように

私も大切な人を亡くし、

時雨が降り続けるように

しきりに涙に濡れています。

 

どんなに泣いても

あなたは

この世を離れて

天国に逝ってしまわれたのです。

 

霜が凍りついた垣根には

あなたの香りが今も匂っておりますよ。

 

霜のように凍った涙が

あなたの艶やかな美しさを

思い出させ、

そこに留めてくれているようです。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

この歌は

「花」や「にほふ」などのワードから

女性のことを言っていると感じます。

 

延喜(897年〜930年)の御代に

醍醐天皇周辺で逝去された女性は、

下記のとおり、複数おられます。

 

この歌は、

「冬の歌」に所収されていますので、

10月に逝去された君子内親王(醍醐天皇の妹)か、

11月に逝去された恭子内親王(醍醐天皇の皇女)のことを

うたっている可能性が高いと思われます。

 

醍醐天皇:885年1月18日〜930年9月29日(享年46)。

在位:897年7月3日〜930年9月22日。

宇多天皇の第一皇子。

 

君子内親王:892年〜902年10月8日(享年11)。

父は、宇多天皇。醍醐天皇の妹。

 

藤原温子:872年〜907年6月8日(享年36)。

宇多天皇の女御。醍醐天皇の養母。

 

均子内親王:890年〜910年2月25日(享年21)。

父は、宇多天皇。醍醐天皇の妹。

 

恭子(きょうし)内親王:902年〜915年11月8日(享年14)。

醍醐天皇の皇女。

 

宣子内親王:902年〜920年閏6月9日(享年19)。

醍醐天皇の皇女。

 

慶子内親王:903年〜923年2月10日(享年21)。

醍醐天皇の皇女。

 

 

 

ついで:順序。次第。順番。機会。折り。場合。

ついで:次に。引き続いて。それから間もなく。

ついでに:それを機会に。この機会に。その折りに。

 

しぐる:時雨が降る。涙に濡れる。涙ぐむ。

 

くれ;なにがし。だれだれ

くる;目がくらむ。涙で目が見えなくなる

くる;日が暮れる。終わる。すぎる

くる;くれる。与える。糸を繰る。

 

つつ:伝える。ことづける。

つつ:何度も〜して。しきりに〜して。繰り返し〜して。〜続けて。ずっと〜して。〜ながら。それぞれ〜して。〜にもかかわらず。〜ことだよ。

 

かり:一時的なこと。間に合わせであること。かりそめ。

かり:雁。霊魂を運ぶ鳥とされる。

かり:狩り。鷹狩り。桜狩りやもみじ狩り。

 

かる:枯れる。干からびる。干上がる。涸れる。

かる:離れる。遠ざかる。間をあける。隔たる。足が遠くなる。疎遠になる。よそよそしくなる。

かる:草などを切り取る。

かる:借りる。

かる:追い払う。追い立てる。馬などを走らせる。

 

いく:生きる。生存する。生きながらえる。助かる。花を生ける。

いく:行く。移動する。赴く。立ち去る。通り過ぎる。

ゆく:流れ去る。経過する。死ぬ。亡くなる。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

のべ:野のあたり。野原。

のべのけぶり:火葬の煙。

 

はな:花。薄い藍色。華やかないこと。栄えていること。うつろいやすいこと。上辺だけの美しさ。芸の華やかさ。祝儀。

はな:先端。末端。はし。

はな:鼻。鼻水。風邪。

はなつ:身から離す。手放す。自由にする。逃がす。あける。開く。発する。矢をいる。火をつける。除外する。追放する。流罪にする。

 

なる:生まれる。生じる。実ができる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。達する。おいでになる。おでましになる。

なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。使い古す。くたびれる。

なる:生業とする。

なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。

なる:断定。伝聞推定

 

しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。

しも:霜。白髪のたとえ。

しも:〜なさる。

しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。

 

まがき:竹や柴で作った垣根。

まが;悪いこと。災い。

がき;餓鬼。

 

にほふ:染まる。美しく染まる。赤く映える。艶やかに美しい。良い香りがする。香気が漂う。恩恵が及ぶ。恩恵で栄える。美しく色付ける。染める

 

おふ:成長する。伸びる。生じる。

生える。

おふ:似つかわしい。ふさわしい。似合う。背負う。身に備える。こうむる。

おふ:追いかける。後を追う。目指していく。追い出す。

 

いろ:色合い。禁色。喪服。顔色。表情。美しい容姿。華やかな色艶。気配。様子。やさしさ。思いやり。恋愛。女性。恋人。

いろ:天皇が父母の喪の初めの十三日間こもる仮宿。

 

いろか:色と香り。女性の艶やかな美しさ。