《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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題知らず
源信明(さねあきら)朝臣
ほのぼのと有明(ありあけ)の月の月影(つきかげ)に紅葉(もみぢ)吹きおろす山颪(やまおろし)の風
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
題知らず
源信明朝臣
ほの明るい有明の月の光のもとで、
紅葉を吹き下ろす山颪の風よ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;「紅葉が散った」=「その方の命が散り落ちた」とき、
臨終に立ち会った人々の様子を詠みました。
作者;源信明
(16日を過ぎたので)
明け方の月が
まだ沈まずに空にいて、
ほのかに光を放っています。
その日の早朝のこと、
その方は
最期の息を吐いて
命を尽きさせようとされていました。
臨終に駆けつけてきた人々が
部屋の中にたくさんいます。
手を擦り合わせて神仏に拝む
人々の様子が
明け方の月明かりに照らされています。
その方が亡くなった瞬間、
山から吹き下ろす激しい風のように
人々の口から激しい泣き声が
勢いよく吹き出していましたよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌は、
『新古今和歌集』では
「冬歌」に収められています。
冬(10月から12月)の16日以降の早朝に
亡くなった人がいないか調べましたが
該当者が見当たりません。
作者の生きていた年代で、
16日以降に崩御された天皇は
醍醐天皇と宇多天皇がいます。
『和漢朗詠集』には「風」の部に
収められているということなので、
「病気の風邪」で崩御された
醍醐天皇のことを言っている
可能性が高いでしょうか。
源信明:910年〜970年(享年61)。
朱雀天皇、村上天皇、冷泉天皇に仕えた。
三十六歌仙。
醍醐天皇:885年1月18日〜930年9月29日(享年46)。
在位:897年7月3日〜930年9月22日。
宇多天皇の第一皇子。
宇多天皇:867年5月5日〜931年7月19日(享年65)。
在位:887年8月26日〜897年7月3日。
899年10月24日:出家。仁和寺に入り、法皇となった。
ほのぼの:かすかに。ほのかに。ほんのりと。わずかに。少し。それとなく。うすうす。
ありあけ:毎月16日以降で、月がまだ空にあるときに、
夜が明けること。夜明け。その頃の月。
あり:存在する。いる。ある。生きている。その場にいる。居合わせる。時間が過ぎる。経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。
あけ:赤い色。朱色。
あく:夜が明ける。年が改まる。
あく:開く。隙間ができる。欠員が生じる。物忌が終わる。
あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。
つき:月。月の光。一か月。
つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。
つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。
つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。
つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。
つく:築く。
つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。
つきかげ:月明かり。月に照らされた人や物の姿。月。
かげ:人やものの後方。物陰。隠れ場所。人目につかないところ。恩恵。おかげ。庇護。
かげ:光。姿。形。水面や鏡にうつる姿、形。面影。影法師。痩せ衰えた様子。やつれた姿。虚像。幻影。影のように寄り添って離れないもの。死者の霊魂。
かけ:結びつけること。口に出して言うこと。
かけ:馬に乗って走らせること。
もみぢ:紅葉。
もみづ:紅葉する。色づく。
もむ:両手を擦り合わせる。はさんでこする。揉み合う。激しく指導する。
みち:通路。途中。道理。すじみち。道徳。教義。方法。ある方面。
みち:満ちること。
みつ:充満する。満ちる。満月、満潮になる。叶う。知れ渡る。
ふく:風が吹く。口から吹きだす。勢いよく吹きだす。吹き上げる。
ふく:時がたつ。季節が深まる。夜が更ける。年をとる。老ける。
おろす:おろす。下げる。剃髪する。木の枝などを落とす。風が吹き下ろす。退出させる。下がらせる。退位させる。官位を下げる。お下がりをいただく。悪口をいう。すりおろす。新しい品を使い始める。調理する。
やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。山鉾。憧れたり仰ぎ見たりするもの。頼りにするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。
やまおろし:山から吹き下ろす激しい風。
かぜ:風。風習。ならわし。伝統。風邪。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『信明集』の詞書には、
「御屏風の絵に、紅葉散りたるを見る人人」とある。
『和漢朗詠集』には「風」の部におさめる。