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逢ふことの絶えてし無くばなかなかに人をも身をも恨みざらまし

 

中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)

 

【出典】

『拾遺集』巻十一・恋一・678・藤原朝忠

「天暦御時歌合に」

 

++【口語訳】(『最新全訳古語辞典』・東京書籍より)++

 

あなたに逢うことがまったくないならば、

あなたのことを、

また自分の運命の儚さを

恨むこともないであろうに。

 

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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□

 

 

(※『和歌暗号(わかコード)』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;960年、村上天皇が主催された

「天徳四年内裏歌合」にて詠みました歌。

 

作者;中納言朝忠

 

 

恋人関係だったあなたと

関係が絶えてしまいました。

 

この先、

もうお逢いすることはないでしょう。

 

なまじっか

あなたにお逢いしたばっかりに、

あなたのことや

私の身の上のことを考えてしまいます。

 

あなたに逢うことがなかったら、

あなたのことを諦められずに

恨み言を言ったり

悲しんで泣いたりすることも

なかっただろうに。

 

 

 

947(天暦元)年10月5日。

 

村上天皇の女御でいらっしゃった

藤原述子さまが

15歳の若さで逝去されました。

 

彼女は亡くなってしまったので

この先、

二度とお逢いすることができなくなりました。

 

村上天皇は、

述子さまの死を嘆き、

こらえきれずに涙を流しておられます。

 

彼女は、

病気(疱瘡)だったのに、

無理をおして出産された末に

亡くなられました。

 

村上天皇は、

こんなことなら最初から、

入内も出産もさせなければよかった…と

悔やんでいらっしゃいます。

 

もし

こんな境遇にしなければ

 

彼女の死を

心残りで諦められないと思うこともなかったし、

 

身重(みおも)となった述子さまの身体に

病気が宿ったことも

恨めしく思うことはなかっただろうに…。

 

まだ15歳だった女御を亡くされた村上天皇は

そんな風に思って

泣いておられましたよ。

 

 

【和歌コード訳の解説】

 

この歌の作者の意図は②のほうです。

元号が「天暦」のときに起きた出来事を

具体的にうたっています。

 

藤原朝忠:910年〜966年12月2日(享年58)。

三十六歌仙。

醍醐天皇、朱雀天皇、村上天皇に仕えた。

963年から中納言。

965年10月から中風のため政務に就くことが困難となる。

 

天暦御時歌合:960年3月30日。天徳四年内裏歌合。

天暦御時:村上天皇の御代(946年4月20日〜967年5月25日まで)。

天暦は、947年〜957年の11年間。

 

村上天皇:926年6月2日〜967年5月25日(享年42)。

在位:946年4月20日〜967年5月25日。

父は、醍醐天皇。

母は、藤原穏子。

朱雀天皇の同母弟。

 

藤原述子(のぶこ・じゅっし):933年〜947(天暦元)年10月5日(享年15)。

村上天皇の女御。

父は、藤原実頼。母は、藤原時平の女。

946年、女御となる。

947(天暦元)年10月5日、東三条殿にて疱瘡発病中に出産し、亡くなった。

 

 

あふご:物を肩で担ぐための棒。にない棒。天秤棒。

あふご:愛し合う男女が逢う機会。

 

あふ:耐える。持ち堪える。差し支えない。大目に見る。完全に〜しとげる。終わりまで〜しおおせる。どうしても〜することができない。

あふ:出会う。対面する。来合わせる。うまく出くわす。あたる。適合する。男女が関係を結ぶ。ちぎる。結婚する。相手になる。立ち向かう。対抗して争う。

あふ:ひとつになる。一緒になる。一致する。調和する。釣り合う。似合う。一緒に〜する。互いに〜しあう。

あぶ:(水、湯、光などを)浴びる。

 

こと:言葉。言語。うわさ。評判。便り。消息。和歌。

こと:行為。動作。ふるまい。行事。仏事。儀式。仕事。任務。政務。出来事。現象。一大事。事件。重大なこと。事情。わけ。意味。様子。ありさま。食事。〜すること。

こと:別のもの。違うもの。

こと:琴。琴の演奏。

こと:違っている。異なっている。格別だ。特別だ。格別に優れている。

 

たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。

 

し:死。

なく:鳴く。亡く。泣く。無く。

しな:地位。身分。家柄。品格。品位。気品。品性。種類。たぐい。区別。差異。立場。状況。事情。味わい。趣。階段。段。やり方。方法。

しなす:その状態にする。仕立てあげる。

く:消える。来る。行く。

 

なかなか:中途半端だ。どっちつかずだ。かえってしない方がましだ。なまじっかだ。できそうもないのに無理に。よせばいいのに。かえって。むしろ。(打消を伴って)とても。容易には。とうてい。(近世語)ずいぶん。かなり。いかにも。そのとおり。

 

ながながし:非常に長い。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

み:身体。身分。身の上。自分自身。我が身。命。本体。中身。

み:海

みをも:身重

みを:川や海で深い溝のようになっていて、水の流れる道筋。船が往来する水路となる。

 

おも:母。母親。うば。

おも:顔。顔つき。表面。面影。

 

うらみ:恨めしく、憎いと思うこと。怨恨。心残りで諦められないと思うこと。未練。悲しみ。嘆き。悲嘆。

うらみ:入り江。船でかいが添いに巡り進むこと。

うらむ:不満に思う。恨みに思う。憎く思う。悲しむ。恨み言をいう。不平不満を訴える。ぐちをこぼす。恨みを晴らす。仇討ちをする。仕返しをする。虫が悲しげに鳴く。風が悲しげな音を立てる。

うら:心。思い。

うら:占い。

うら:入り江。湾。海辺。海岸。

うら:裏面。内部。裏布。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

ざらまし:もし〜だったら、〜ないだろうに。もし〜だったら、〜なかったろうに。