鵲(かささぎ)の渡(わた)せる橋に置く霜(しも)の白きを見れば夜(よ)ぞ更けにける

 

中納言家持(ちゅうなごんやかもち)

 

 

【出典】

 

『新古今和歌集』巻六・冬歌・620

題知らず・中納言家持。

 

++【口語訳】(『最新全訳古語辞典』・東京書籍より)++

 

かささぎが翼を連ねて

天の川に渡している橋、

そこに置く霜が真っ白なのを見ると、

夜もすっかり更けたのだな。

 

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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□

 

 

(※『和歌暗号(わかコード)』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

作者;中納言家持

 

 

光仁天皇は、

霜が降りる

寒い冬の日(12月23日)に崩御されました。

 

皇后だった井上内親王と

皇太子だった他戸親王は

呪詛の嫌疑をかけられ、

庶民に落とされ、

幽閉されて

先に

浄土への橋を渡らされて(亡くなって)います。

 

ふたりが

呪詛の嫌疑をかけられたことは

臣下(藤原良継や藤原百川ら)のしわざであることは

明白です。

 

光仁天皇が

皇居にかかる橋を渡られた(=即位された)のは、

頭髪が白くなられた

(歴代天皇の中で過去最高齢の)62歳。

 

また、

天国へと繋がる橋を渡られた(=崩御された)のも

頭髪がさらに白くなられた

73歳でした。

 

光仁天皇は、

先に亡くなった

愛しい家族がいる

天国への橋を

渡られたのです。

 

高齢となられ、

頭髪が白くなられている様子を見れば、

 

寿命が尽きられ、

光仁天皇の御代が終わっていかれるのだと

明白にわかりました。

 

天皇の命が尽きられた

寒い冬の夜が

更けていきましたよ。

 

 

【和歌コード訳の解説】

 

この歌は、『万葉集』には入集していません。

大伴家持が『万葉集』に詠んだ最後の歌は、

759年のもの。

=孝謙天皇の頃までの歌だということになります。

 

この歌が所収されている『新古今和歌集』を見ると

前後の歌は、

誰かが亡くなっていることを

言っています。

なので、この歌も

天皇か高貴な人物が亡くなったことを

よんでいると考えられます。

 

大伴家持:718年頃〜785年8月28日(享年68)。

父は、大伴旅人

三十六歌仙のひとり。

783年(66歳)に中納言。(桓武天皇の御代)。

 

光仁(こうにん)天皇:709年10月13日〜781年12月23日(享年73)。

在位:770年10月1日〜781年4月3日。

即位した年齢が歴代最高齢の62歳。

777年11月1日、病を得る。

781年4月、病を得て譲位。

皇后・井上内親王と、皇太子・他戸親王は、

呪詛の疑いで庶民に落とされる。

これは、山部親王(後の桓武天皇)の立太子を目論む

藤原良継・藤原百川らの陰謀ともいわれている。

 

井上内親王:717年〜775年4月27日(享年59)。

聖武天皇の第一皇女。

光仁天皇の皇后。

呪詛の疑いをかけられ、庶民に落とされている。

 

他戸親王:761年?〜775年4月27日(享年15)。

父、光仁天皇。

母、井上内親王。

皇太子に立てられたが、母とともに庶民に落とされ、

幽閉されて亡くなっている。

 

かささぎ:かちがらす。カラスよりやや小さく、尾が長い。北九州に生息する。七夕伝説で有名な鳥。

 

かささぎのはし:7月7日の七夕の夜、牽牛星と織女星が天の川で会う時に、かささぎが翼を並べてかけわたすという想像上の橋。男女の契りの橋渡しの意にもいう。

 

かさ:傘。笠。

かさ:重なった物の高さ、大きさ、量、容積。高いところ。上の方。相手を威圧する勢い。威厳。貫禄。芸の厚みや幅。

かさ:罪人をつなぐのに用いた刑具。枷(首や手足にはめて自由が効かないようにする道具)と鎖。

 

さき:先端。先頭。先陣。末端。前方。第一。上位。前。将来。前途。行く末。以前。過去。先ばらいをする人。

さき:幸い。幸福。栄えていること。

さき:岬。山や丘が平地に突き出た部分。

 

ささ:笹。

ささ:これこれ。しかじか。

ささ:酒。

ささ〜:細かい。小さい。少しの。という意。

 

わたす:移動させる。越えさせる。浄土へいかせる。授ける。ひきわたす。

 

はし:はしご。階段。きざはし。位階。宮中の御階。

はし:ふち。へり。先端。はじめ。起こり。発端。きっかけ。端緒。縁側。一部分。断片。中途半端。

はし:くちばし。

はし:橋。渡り廊下。

はし:かわいい。いとおしい。なつかしい。

 

はぢ:恥。恥ずべきこと。面目を失うこと。辱め。恥を知ること。名誉を重んじること。

 

おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。

おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。

 

しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。

しも:霜。白髪のたとえ。

しも:〜なさる。

しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。

 

しろ:代わりとなるもの。代用。代金。

しろし:白い。明るい。はっきりしている。

 

みる:目に留める。目にする。見て判断する。会う。対面する。経験する。ことにあう。試みる。世話をする。面倒をみる。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

ふく:風がおこる。風が吹く。息を口から噴き出す。

ふく:時がたつ。季節が深まる。夜がふける。年をとる。老ける。

ふく:屋根を覆う。草木を軒先にさして飾る。

ぶく:喪服。喪中。

ぶく:供物。