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足引(あしひき)の山鳥(やまどり)の尾(を)のしだり尾のながながし夜(よ)をひとりかも寝む

 

柿本人麿

 

 

【出典】

「拾遺集」巻十三・恋歌三・778。「題しらず・人まろ」

 

++【口語訳】(『最新全訳古語辞典』・東京書籍より)++

 

山鳥の長く垂れた尾ではないが、

長い長い夜を

私はたった一人で寝るのだろうか。

 

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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□

 

 

(※『和歌暗号(わかコード)』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

作者;柿本人麻呂

 

 

天武天皇は、

686年5月に

とても具合が悪い病気になられました。

 

そして、

9月に崩御されました。

 

美しく雄大な山のように素晴らしい天武天皇でしたが、

この世を去られ、

陵に入られたので、

天皇の立場から退かれました。

 

山鳥は、

昼間は一緒に過ごしていて、

夜になると別々に寝る鳥です。

 

同じように、

仲が良かった天武天皇と持統天皇は

地上と天国に分かれてしまわれ、

 

持統天皇は、

ひとりで長い夜と

長い余生を過ごすこととなりました。

 

共に過ごす相手のいない夜は

とても長く感じられるもの。

 

また、

これからひとりで

国を統治することも

容易なことではないでしょう。

 

亡き天武天皇は、

長期間にわたり、

この日本の国をしっかりと指導なさった天皇です。

 

天武天皇の素晴らしい功績は

山鳥の長い尾のようでした。

 

長い間、

勇ましく、

雄々しく、

続いていたのです。

 

そして、

その山鳥の尾を引き継ぐ持統天皇は、

ひとりになられても

引き続き

思慮深く、

長期間にわたる

素晴らしい政治を

おさめられることでしょう。

 

 

 

【和歌コード訳の解説】

 

この歌は、

表向きは

夫を亡くしてひとりで寝ている妻のことを言っています。

 

この状況に合う歴史的事実として、

天武天皇を亡くして

ひとりになった持統天皇の状況がありました。

 

柿本人麻呂は、

持統天皇の宮廷歌人として活躍した人です。

 

この歌を和歌コードで解釈すると、

亡き天武天皇の残した功績への賛美と、

これから一人で日本の政治をおさめる

持統天皇への応援の気持ちが込められている。

そう読み解くことができます。

 

 

柿本人麿・人麻呂・人丸:660〜724年3月18日(享年65)。

三十六歌仙。

持統天皇・天智天皇に出仕。

人麻呂は官位こそ低かったものの、

持統天皇から個人的庇護を受けたらしく、

彼女が死ぬまで「宮廷詩人」として

天皇とその力を讃える歌を作り続け、

その後は地方官僚に転じた。

 

持統天皇:645〜702年12月22日(享年58)。

在位:690年1月1日〜697年8月1日。

父は、天智天皇。

夫は、天武天皇。

689年3月13日に、草壁皇子が亡くなったため、

持統天皇が誕生した。

 

天武天皇:?〜686年9月9日。

在位:673年2月27日〜686年9月9日。

672年、壬申の乱で大友皇子(弘文天皇)を倒し、

翌年、即位する。

『日本書紀』『古事記』の編纂を始め、

死後に完成した。

「天皇」を称号とし、「日本」を国号とした天皇。

額田王を妻として子もいたが、

額田王は後に中大兄皇子の妃となる。

この三角関係が後の兄弟の不和の原因となったとする説がある。

686年5月24日、病気になる

 

文武天皇:683年〜707年6月15日(享年25)。

在位:697年8月1日〜707年6月15日。

祖父は、天武天皇。

祖母は、持統天皇。

草壁皇子の第一皇子。

即位時、まだ15歳だったので、

持統天皇が太上天皇となり補佐した。

妻は、藤原宮子(藤原不比等の女)。

 

藤原宮子:?〜754年7月19日。(享年70前後か?)

文武天皇の后。

史上初めて生前に女性で正一位に叙された。

皇后でも皇太后でもなかったが、史上初の太皇太后となる。

 

あしひきの:山

 

あし:足。脚。歩くこと。雨足。船の速度。

あし:植物の葦。

あし:悪い。不適当だ。不都合だ。具合が悪い。見苦しい。みっともない。卑しい。貧しい。悪い。不快だ。すぐれない。荒々しい。激しい。下手だ。劣っている。

 

ひき:引くこと。率いること。導き。引き立て。手助け。助け。つて。

ひく:退く。退却する。

ひく:引っ張る。引き抜く。取り去る。取り外す。引いて張り巡らす。弓を引く。引きずる。導く。心を惹きつける。誘う。引用する。線を書く。地ならしをする。贈り物として与える。入浴する。つまびく。

 

やま:山岳。比叡山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたりあおぎみたりするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。

 

やまどり:キジに似ているがやや大きい。雄の尾が長いことから、長いこと、特に、夜が長いことに例えられる。昼は雄と雌が一緒にいるが、夜は嶺を隔てて別々に寝ることから、独り寝することのたとえに用いられる。

 

やまと:大和

 

とる:照る。

とる:つかむ。しっかりと握る。捕らえる。採取する。収穫する。操作する。奪う。盗む。自分のものにする。支配する。選ぶ。採用する。調子を合わせる。うかがう。推量する。

 

を:小さい。少し。わずか。

を:勇ましい。雄々しい。

を:しっぽ。長く伸びたもの。

を:おす。男。夫。

を:山の高いところ。峰。尾根。おか。

を:麻。

を:糸、紐など。弦。命。生命。長く続く物事。

 

しだりを:長く垂れ下がった尾。

しだる:下に垂れる。垂れ下る。

 

ながし:(空間的、時間的に)長い。

 

ながな:あなたの名前、評判、噂。

 

ながながし:非常に長い。

 

なかなか:中途半端だ。どっちつかずだ。かえってしないほうがましだ。なまじっか。できそうにないのに無理に。よせばいいのに。かえって。むしろ。ずいぶん。かなり。いかにも。そのとおり。(打消を伴って)とても。容易には。とうてい。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

ひとり:ひとり。単身。独身。自然に。ひとりでに。

 

かも:〜であるなあ。〜かなあ。〜せいだろうか。〜からか。

かも:鴨。水鳥の名。

かも:京都市にある賀茂神社。上賀茂、下賀茂地区。

 

ぬ:寝る。眠る。

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

ねん:考え。思慮。思い。注意すること。念を入れること。一刹那。瞬間。