《新古今和歌集・巻第五・秋歌下》

 

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法性寺入道前関白太政大臣家歌合に

前参議親隆

鶉(うづら)鳴く交野(かたの)に立てる櫨(はじ)紅葉(もみぢ)散りぬばかりに秋風ぞ吹く

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

法性寺入道前関白太政大臣の家の歌合に

前参議親隆

鶉の鳴いている交野に立っている櫨紅葉が

散ってしまいそうなほどに、

秋風が吹くことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1121年9月に、

法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)の家にて

開催された歌合で

「野の風」をテーマに詠みました歌

 

作者;藤原親隆

 

 

気分が滅入り、

つらく、耐え難いという表情をして

泣いている人がいます。

 

皇室の狩猟地である交野に立っている櫨紅葉。

 

その木のように立派で、

美しかったあの方が

紅葉が散り落ちるかのように

命を散らされ(亡くなられ)ました。

 

紅葉の葉っぱを散らしてしまうくらい

冷たい秋風が吹いています。

 

彼女がいた場所に空きができています。

 

散りゆく紅葉を見ていると、

辛い気持ちになることです。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

この歌が詠まれた1121年は、

鳥羽天皇の御代。

鳥羽天皇の乳母は、藤原光子です。

彼女の死を嘆いての歌だと推測することができます。

 

藤原光子:1060〜1121年4月16日(享年62)。

藤原璋子(待賢門院)(養父は白河法皇)の母。

堀河天皇(白河天皇の第二皇子)・鳥羽天皇(堀河天皇皇子)の乳母。

堀河・鳥羽両天皇の乳母として政界に隠然たる力を持っていた。

 

藤原親隆:1099年〜1165年8月23日(享年67)。

1161年、参議。

1162年2月、不出仕により謹慎処分。

1163年8月、出家。

 

法性寺入道前関白太政大臣:

藤原忠通:1097年1月29日〜1164年2月19日(享年68)。

1129年1月:太政大臣

1129年4月:関白を辞す

1142年1月:関白を辞す

 

うし:つらい。情けない。憂鬱だ。わずらわしい。気が進まない。憎らしい。うらめしい。つれない。薄情だ。

 

つらし:薄情だ。冷淡だ。思いやりがない。たえがたい。つらい。

 

うづむ;気分をめいらせる。物思いに沈ませる

 

つら:連なること。列。同類。仲間。

 

つら:顔。ほお。表面。おもて。そば。わき。かたわら。

 

うづら:鶉。鳥の名。草原で見られることが多く和歌では秋の風物詩として詠まれる。

 

なく:鳴く。亡く。泣く。無く。

 

かたの:皇室の狩猟地。桜の名所。

かたし:難しい。なかなかできない。めったにない。

 

たつ:立ち上がる。起立する。現れる。立ち上る。飛び立つ。出発する。旅立つ。はっきり見える。時季がくる。時間が過ぎる。高く響く。評判になる。名声があがる。止まっている。位に就く。切れる。冴える。激昂する。設置する。有名になる。評判を立たせる。生じさせる。起こす。出発させる。派遣させる。飛び立たせる。時間を経過させる。突き刺す。閉じる。専門とする。維持させる。建てる。目や耳を働かせる。

たつ:切り離す。断ち切る。習慣をやめる。裁断する。

たつたやま:紅葉の名所。

 

はじもみぢ:はじ(はぜ)の木の紅葉。襲の色目の名。秋に用いる。

櫨は、漆科の落葉高木。

 

はし:はしご。階段。きざはし。位階。

はし:ふち。へり。先端。はじめ。起こり。発端。きっかけ。端緒。縁側。一部分。断片。中途半端。

はし:くちばし。

はし:橋。渡り廊下。

はし:かわいい。いとおしい。なつかしい。

 

はぢ:恥。恥ずべきこと。面目を失うこと。辱め。恥を知ること。名誉を重んじること。

 

もみぢ:紅葉。

もみづ:紅葉する。色づく。

もむ:両手を擦り合わせる。はさんでこする。揉み合う。激しく指導する。

みち:通路。途中。道理。すじみち。道徳。教義。方法。ある方面。

みち:満ちること。

みつ:充満する。満ちる。満月、満潮になる。叶う。知れ渡る。

 

ちる:散る。散らばる。散り落ちる。別れ別れになる。ばらばらになる。世間に広まる。知れ渡る。気が散る。落ち着かない。まとまらない。

ちり:ほこり。わずかなこと。少しの汚れ。わずかな汚点。小さな欠点。この世の汚れ。俗世間。

ちり:散ること。散るもの。

 

ばかり:〜くらい。〜ほど。〜ころ。〜だけ。〜ばかり。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

かぜ:風。風邪。風習。ならわし。伝統。

 

ふく:風が吹く。口から吹きだす。勢いよく吹きだす。吹き上げる。

ふく:時がたつ。季節が深まる。夜が更ける。年をとる。老ける。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

関白内大臣家