《新古今和歌集・巻第五・秋歌下》

 

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千五百番歌合に

春宮権大夫公継

寝覚(ねざ)めする長月(ながつき)の夜(よ)の床(とこ)寒(さむ)み今朝(けさ)吹く風に霜や置くらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

千五百番の歌合に

春宮権大夫公継

寝覚めする九月の夜の床が寒いので、

今朝吹く風で、

霜が置いているのであろうかと

思われるよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1201年から翌年にかけて後鳥羽院が主催した

『千五百番歌合』で献上したときの歌

 

作者;春宮権大夫公継(徳大寺公継)

 

 

九月(ながつき)の明け方、

眠りから覚めると

寝床がとても寒々しく

冷え込んでおりました。

 

今朝の冷たい風のせいで

霜が降りているようです。

ある人が亡くなり、

袈裟を着た僧侶が

読経の声をあげているのでした。

 

(着物の)袈裟に吹きつける

冷たい風に

人々のこぼす涙がたまって

霜がついたようになっていたことでしょう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

徳大寺公継:1175年〜1227年1月30日(享年53)。

1202年〜皇太子守成親王(のちの順徳天皇)の春宮権大夫。

1202年は、親王が6歳のとき。

 

ねざめ:眠りから覚めること。夜中や明け方に目を覚ますこと。

 

めす:ご覧になる。お治めになる。お呼びになる。お呼び寄せになる。召し上がる。任命なさる。お乗りになる。

 

ながつき:九月。

 

ながし:(空間的、時間的に)長い。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

とこ:常に変わらない。永遠に変わらない。

とこ:寝床。牛車の車体。床の間。納涼のための桟敷。

 

さむし;寒い。冷たい。寒々としている。貧しい。

 

けさ:今朝。袈裟。

 

ふく:幸い。幸福。

ふく:風がおこる。風が吹く。息を口から噴き出す。

ふく:時がたつ。季節が深まる。夜がふける。年をとる。老ける。

ふく:屋根を覆う。草木を軒先にさして飾る。

ぶく:喪服。喪中。

ぶく:供物。

 

かぜ:風。風習。ならわし。伝統。風邪。

 

しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。

しも:霜。白髪のたとえ。

しも:〜なさる。

しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。

 

おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。

おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。

 

らむ:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

千五百番