《新古今和歌集・巻第五・秋歌下》
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五十首歌奉りし時、菊籬月(きくりのつき)といへる心を
宮内卿
霜(しも)を待つ籬(まがき)の菊の宵(よひ)の間(ま)に置きまよふ色は山の端(は)の月
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
五十首の歌をさしあげた時、「菊籬の月」といった趣を
宮内卿
霜を待っている籬の菊の、
宵の間に霜が置いたのかと見誤られる色は、
山の端の月の光なのだ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1201年に後鳥羽院が主催された『仙洞五十首』にて
「菊籬の月」=
「宮中に出仕することになった」
というテーマで詠みました歌
作者;後鳥羽院宮内卿
後鳥羽院のもとに
女房として出仕することとなりました。
菊の花は、霜にあたると色が変わり、
別な美しさとなります。
それと同じように
私もまた、
明朝、霜が降りる頃には
今までとは別の世界(宮中)へと入ります。
私は中心(皇居)から離れた
菊の花の垣根がある家で
後鳥羽院(菊=天皇家)の
家臣の方が迎えに来られるのを
待っていました。
夜になって間もない頃、
寝ないで起きていると
母が右往左往している様子が見えました。
母は、
うろたえながらも
山の端に出ている月のように
私にやさしく寄り添って
一緒に起きていてくれましたよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
辞書には出ていませんが「菊」には
「天皇家の御紋」の意味が内包されていると
感じられます。
後鳥羽院宮内卿(ごとばいんのくないきょう):生没年不詳。
二十歳前後で亡くなったとされる。
歌才によって後鳥羽院のもとに女房として出仕。
1200年から1204年の短期間に後鳥羽院歌壇で活躍。
新三十六歌仙。
女房三十六歌仙。
父は、源師光。
母は、後白河院の女房安芸。
兄に源泰光、源具親。
しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。
しも:霜。白髪のたとえ。
しも:〜なさる。
しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。
まつ:松。永久不変。待つ。
まがき:竹や柴で作った垣根。
まが;悪いこと。災い
がき;餓鬼
きく:うまく働く。役に立つ。上手である。優れている。
きく:聞いて知る。聞いて思う。聞き入れる。尋ねる。問う。味や香りを試す。匂いをかぐ。吟味する。
きく:菊。奈良時代、中国から渡来した。平安時代より秋を代表する花のひとつ。襲の色目。菊の花や葉を用いた文様。
よひ;夜になって間もない頃。日没から夜中までの間。
ま:目。あいだ。隙間。部屋。ひま。
おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。
おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。
まよふ:ゆるむ。ほつれる。乱れる。形が崩れる。右往左往する。さまよう。思いなやむ。思い迷う。まぎれる。見誤られる。
いろ:母親が同じ関係にあること
いろ:色彩。色合い。階級によって定められた衣服の色。喪服の色。喪服。顔色。表情。顔立ちや姿。美しい容姿。華美。華やかな色艶。気配。様子。風情。やさしさ。思いやり。情味。恋愛。女性。種類。たぐい。
いろ:天皇が父母の喪のはじめの十三日間こもる仮屋。
いろは:うみの母。生母。
やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。山鉾。憧れたり仰ぎ見たりするもの。頼りにするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。
やまのは:山の稜線。
は:羽。羽毛。
は:はし。へり。縁。
つき:月。月の光。一か月。
つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。
つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。
つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。
つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。
つく:築く。
つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
仙洞五十首