《新古今和歌集・巻第五・秋歌下》
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秋歌(あきのうた)とて
太上天皇
寂しさは深山(みやま)の秋の朝曇り霧にしをるる槙(まき)の下露(したつゆ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
秋の歌として
太上天皇
寂しさを呼ぶのは、
深山の秋の朝曇りに、
霧で濡れてしっとりと枝を垂れている
槙の下に露の落ちる眺めよ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;「秋の歌」として詠んだ歌
作者;後鳥羽院
天皇の陵のある山は、
ひっそりとして寒々と寂しい感じに
なっています。
天皇が亡くなってまだ日が浅いこの秋。
寒々しく寂しげな秋の朝は
空も曇っていますし、
私の心も晴れることがなく
暗い気持ちになっています。
山には霧がかかって
常緑樹の槙から滴り落ちる露も
私の心と同じように
気落ちして元気がないように見えますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌が具体的に誰のことを言っているのか不明ですが、
作者(後鳥羽院)の近親者で、
天皇の陵に入っている(亡くなった)人物のことを
言っていると読み取れます。
後鳥羽天皇:1180年7月14日〜1239年2月22日(享年60)。
在位:1183年8月20日〜1198年1月11日。
高倉天皇の第四皇子。
後白河天皇の孫。
安徳天皇の異母弟。
高倉天皇:1161年9月3日〜1181年1月14日(享年19)。
在位:1168年2月19日〜1180年2月21日。
1180年2月、安徳天皇に譲位し、太上天皇となったが
間もなく病に倒れた。
父は、後白河天皇。
母は、平滋子(建春門院)。
子に、安徳天皇、後鳥羽天皇。
中宮は、平徳子(建礼門院)。
安徳天皇:1178年11月12日〜1185年3月24日。
(享年満6歳4ヶ月)。
さびし:ひっそりとしている。ひっそりとしていて寂しい。なんとなく寒々としている。心が満たされず楽しくない。貧しい。
みや:神社。天皇。皇居。離宮。皇族の敬称。
みやま:お山。天皇の墓。
やま:山岳。比叡山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたりあおぎみたりするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。
あき:7月から9月
あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。
あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。
あさ:朝
あさし:浅い。まがない。思いやりや愛情などが軽い。薄い。考えが足りない。情趣が劣る。平凡だ。色や香りが淡い。うすい。身分や位が低い。
くもる:雲が空を覆う。光や色がはっきりしなくなる。艶がなくなる。くすむ。涙でぼやける。暗い気持ちになる。心がふさぐ。心が晴れない。
くも:空の雲。雲のように見えるもの。心が晴れないこと。心の憂い。うっとおしいこと。火葬の煙。死ぬこと。
つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。
きり:霧
きり:区切りをつけること。
しをる:しぼむ。しおれる。気落ちして元気がなくなる。ぐったりする。しょんぼりする。
しをる:戒める。こらしめる。責める。折檻する。
しをる:山道などで木の枝を折って道しるべとする。道案内する。
をる:波が折り砕ける。曲げる。折り曲げる。折りとる。折り畳む。折り目をつける。気が挫ける。負ける。
まき:巻物
まき:立派な木。常緑樹
まく:枕とする。枕にして寝る。抱いて寝る。一緒に寝る。結婚する。
まく:巻きつける。巻き上げる。丸める。
まく:撒き散らす。植物の種を植える。
したつゆ:草木から滴り落ちる露。
した:下部。下の方。地位や身分が低いこと。若いこと。能力が劣ること。内部。内側。内心。心のなか。
つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。