《新古今和歌集・巻第五・秋歌下》

 

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題知らず

善滋為政(よししげのためまさ)朝臣

郭公(ほととぎす)鳴く五月雨(さみだれ)に植ゑし田をかりがね寒み秋ぞ暮れぬる

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

善滋為政朝臣

ほととぎすの鳴いていた夏の五月雨のころに植えた田を、

今、刈り取る時になり、

雁の声が寒く聞こえて、

秋が暮れてしまうことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;亡くなった人に捧げる歌

 

作者;善滋為政

 

 

初夏、五月雨が降る季節に

大切な人が仏となり、

天国に旅立ちました。

 

私の心は乱れ、

梅雨時に降る長雨のように

ずっと泣き続けながら

田んぼの苗を植えたのです。

 

あれから時間がたち、

初夏から秋になって

その苗が収穫できる季節となりました。

 

霊魂を運ぶ鳥といわれる雁が

鳴きながら渡っていきます。

 

雁の鳴き声もまた、

大切な人を亡くして

泣いているように聞こえ、

 

季節と同じく

寒々しい感じがします。

 

秋が暮れていくこの時期、

私は心を暗くして

涙で目を曇らせながら

寒々しい気持ちで

ひとり寝ているのですよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

善滋為政:生没年不詳。

一条天皇、後一条天皇の頃の人。

 

ほととぎす:初夏に渡来し、秋に南方へ帰る。巣を作らず、ウグイスなどの巣に卵を生んで雛を育てさせる。夏の訪れを告げる代表的な渡鳥。昼だけでなく夜も鳴く。山からやってきて山に帰るものと思われ、「山ほととぎす」とも言った。

 

ほとけ:仏陀。釈迦。仏像。仏法。死者。死者の霊。大切な人。情け深い人。おひとよし。

とき:時間。時刻。時候。季節。時代。御代。場合。とき。栄えているとき。時勢。良い機会。当時。その場。

とき:僧の食事。法事。

とぎ:話し相手。寝床の相手。看病をする人。

とく:話してわからせる。説明する。

 

なく:亡く。泣く。鳴く。無く。

 

さみだれ:五月ごろに降る長雨。梅雨。

さみだる:乱れる。

 

うう:植える。飢える。

 

た:手。ほか。別。他人。誰。

 

かりがね:雁の鳴き声。雁の異称。

 

かね:金属。お金。物差し。直角。金属製の仏具。釣鐘。

かぬ:兼ね備える。兼ねる。予想する。一定の範囲にわたる。

 

さむ;熱いものが冷たくなる

 

さむし:寒い。冷たい。寒々としている。貧乏だ。

さむみ:寒いので。寒くて。寒く聞こえて。

 

あき:秋

あく:ひらく。隙間ができる。欠員が生じる。物忌が解かれる。終わる。

あく:十分に満足する。飽き飽きする。嫌になる。飽きるほど〜する。

 

くる:目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れまどう。理性がなくなる。

くる:日が暮れる。終わる。過ぎる。

くる:与える。やる。くれる。

 

ぬる:濡れる。寝る。