《新古今和歌集・巻第四・秋歌上》

 

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崇徳院御時、百首歌召しけるに

左京大夫顕輔

秋の田に庵(いほ)さす賤(しづ)の苫(とま)をあらみ月とともにやもり明(あか)すらん

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

崇徳院の御代、百首歌をお召しになった時に

左京大夫顕輔

秋の田に庵を建てて住んでいる農夫は、

屋根に葺いた苫が粗いので、

漏れてくる月とともに、

田を守って夜を明かしていることであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

題詞;1150年の「久安百首」で、

崇徳院に歌を献上した時に詠んだ歌

 

作者;藤原顕輔

 

秋の田の

粗末な家に

たっぷりと月の光が差し込んでいます。

 

亡くなったその方の亡骸にも

きめの粗い敷物が掛けられておりました。

 

掛けられたその織物のきめが荒いので

月の光が差し込んで

光に照らし出されています。

 

こぼれてくる月の光と共に

命が尽きたその人に付き添い、

眠らずに

月とともに夜を明かしましたよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原顕輔:1090年〜1155年5月7日(享年66)。

1139年1月から左京大夫。

『詞花和歌集』の撰者。

 

崇徳天皇:1119年5月28日〜1164年8月26日(享年46)。

在位:1123年1月28日〜1141年12月7日。

鳥羽天皇の第一皇子。

母は、藤原璋子(しょうし・たまこ)(待賢門院)

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

た:手。ほか。別。他人。誰。

 

いほり:仮の宿り。小屋。草木で作った粗末な家。草庵。

いほ:五百。数の多いこと。

 

ほ:火。帆。百。秀。穂。

ほ:他より優れているもの。表面に出るもの。目立つもの。

 

さす:直射する。照る。差し込む。草木が芽を出す。萌え出る。枝が伸びる。潮が満ちてくる。雲がわく。ゆび指す。目指す。指定する。指名する。傘などをかざす。設置する。前方に伸ばす。

さす:突きさす。水底をつく。虫がさす。

さす:そそぐ。つぐ。火を灯す。色をつける。

さす:さしはさむ。頭髪にさす。

さす:閉ざす。鍵をかける。

 

しづ:日本古来の織物。

しづ:かけて垂らす。

しづ:身分が低いこと、もの。

 

とま:むしろのように編んで、舟や屋根覆いにしたもの。

 

あらし:荒々しい風。

あらし:勢いよく激しい。荒い。荒れてけわしい。乱暴だ。

あらし:きめが粗い。粗雑である。

 

み:身体。身の上。自分自身。命。中身。本体。

み:海。

み:見る

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

もり:守ること。番人。子守。

もる:高く積み上げる。薬や酒を飲ませる。

もる:こぼれる。もれる。秘密などがばれる。はずれる。除外される。

もる:もぎ取る。摘み取る。

もる:守る。番をする。人目をはばかる。様子をうかがう。

 

あかす:眠らないで夜を過ごす。夜を明かす。明るくする。明らかにする。打ち明ける。

 

らん:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。