《新古今和歌集・巻第四・秋歌上》
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五十首歌奉りし時
藤原雅経
たへてやは思ひありともいかがせん葎(むぐら)の宿(やど)の秋の夕暮(ゆふぐれ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
五十首の歌をさしあげた時
藤原雅経
耐えていられようか。
思い合う心はあっても、どうしよう。
この、葎の茂る荒れた宿の、秋の夕暮よ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1201年に後鳥羽院が主催した「老若五十首」で
献上した歌。
作者;藤原雅経
源平の合戦により
平氏は滅亡し、
安徳天皇も崩御されました。
平氏一族も安徳天皇も
じっと耐えて
持ち堪えることができたのだろうか、
いや、出来なかっただろう。
いま、生きている私たちが
たとえ悲しみの気持ちを手向けようとも
どうしようもないし、
何もしてあげられないよ。
平氏が住んでいた家に
人が居なくなって時間がたちました。
むぐらに覆われて荒れ果てた家を眺めていると
虚しさが募り、
涙で目の前が暗くなる
秋の夕暮れ時であることよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌は、1201年に詠まれています。
前の歌に引き続き、
源平の合戦で安徳天皇が崩御され、
平氏が滅亡したことを言っているように
思われます。
「むぐらの家」は、
かつて平氏が住んでいた家に
誰も居なくなって、
草に覆われてしまった家のことでしょう。
作者は、安徳天皇にも仕えていました。
藤原雅経:1170〜1221年3月11日(享年52)。
『新古今和歌集』の撰者のひとり。
源頼朝の養子。
たへ:霊妙だ。上手だ。巧妙だ。
たふ:じっと耐える。こらえる。我慢する。もちこたえる。能力をもつ。すぐれる。
たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。
やは:〜か(いやない)。〜か。どうして〜か。
おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配や悲しみなどの気持ち。もの思い。思慕。愛情。予想。想像。喪中。
あり:存在する。いる。ある。生きている。生活している。無事に暮らしている。その場にいる。居合わせる。時間が経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。
とも:友人。仲間。従者。連れ。
とも:たとえ〜ても。仮に〜ても。いくら〜ても。〜ともよ。〜てたまらない。
いかがせん:どうしたらよいだろうか。どうしようか。どうしようか(いや、どうしようもない)。
むぐら:つる草の総称。
むぐらのやど:むぐらが生い茂り、からみついた家。荒れ果てた家や貧しい家のこと。
むく:心の汚れがなく清浄なこと。心が純粋であること。混じり気がなく純粋であること。布地が無地で同色なこと。
むく:対する。向かう。その方向に進む。ふさわしい。似合う。神仏に供える。服従させる。派遣する。
やど:家の戸。家。自宅。庭先。泊まるところ。主人。
あき:7月から9月
あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。
あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。
ゆふ:日暮れどき
ゆふ:縛る。ゆわえる。髪を結ぶ。組み立てる。
くる:目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れまどう。理性がなくなる。
くる:日が暮れる。終わる。過ぎる。
くる:与える。やる。くれる。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
老若五十首