《新古今和歌集・巻第四・秋歌上》
326
七夕の心を
大中臣能宣(よしのぶ)朝臣
いとどしく思ひ消(け)ぬべし七夕の別れの袖に置ける白露(しらつゆ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
大中臣能宣朝臣
いよいよ思いが切なくて、
心も消えいってしまうに違いない。
夜明けがたの七夕の別れの袖に、
白露が置き、涙も乱れて。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;七夕の気持ちを歌に詠む
作者;大中臣能宣朝臣
(徽子女王が985年に亡くなられ、
その翌年(986年)に
娘、規子内親王が亡くなられました。)
徽子女王の喪中の最中でした。
ただでさえ、
悲しみの気持ちを消そうとしていた
(が、消えることがなかった)のに、
より一層悲しみの気持ちが募ります。
七夕の頃、
大切な人とお別れしなければならないのは、
特に身に染みて悲しみが増すことです。
着物の袖に
白露のような大粒の涙が溢れ落ちることですよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌(326番)の前の歌(325番)の作者が、
徽子女王でした。
作者は、徽子女王やその娘(規子内親王)とも
交流があったとのこと。
徽子女王が985年に亡くなっていて、
その翌年(986年)に娘、規子内親王が亡くなっています。
この歌は、そのことを詠んでいると考えられます。
大中臣能宣:921年〜991年8月(享年71)。
三十六歌仙。
村上天皇、冷泉天皇、円融天皇、花山天皇に仕えた。
徽子女王(前の歌(325番)の作者)や
その娘(規子内親王)とも交流があった。
規子内親王:949年〜986年5月15日(享年38)。
村上天皇の第四皇女。
母は、徽子女王。
徽子女王:929年〜985年(享年57)。
村上天皇:926年6月2日〜967年5月25日(享年42)。
いとどし:いよいよはなはだしい。いっそう激しい。ただでさえ〜なのに、いっそう〜だ。
おもひけつ:強いて思うまいとする。気にかけまいとする。無視する。軽んじる。さげすむ。
おもひ:思うこと。考え。希望。願望。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。思慕。愛情。予想。想像。喪中。
けぬ:消えてしまう。
べし:〜だろう。〜にちがいない。〜う。〜つもりだ。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。
たなばた:七夕
わかれ:別離。死別。
そで:袖
おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。
おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。
しらつゆ:露。
しらく:白くなる。興ざめがする。気分がそれる。具合が悪くなる。決まりが悪くなる。気まずくなる。打ち明ける。明白にする。
しらぐ:たたく。鞭打つ。
しらぐ:精米する。磨いたり削ったりして仕上げる。よりよくする。
つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『能宣集』によると、
7月7日の夜、蔵人所で
探題(いくつかの題の中から探りとった題で歌を詠む催し)により、
「つゆ」の題を取って詠んだ歌。