《新古今和歌集・巻第三・夏歌》

 

277

百首歌よみ侍りける中に

式子内親王

たそがれの軒端の荻(をぎ)にともすればほに出でぬ秋ぞ下にこと問ふ

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

百首の歌を詠みました中に

式子内親王

たそがれの軒端の荻に、

どうかすると、目に見えない秋が

ひそかに訪ねてくることだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;百首の歌を詠みました中に詠んだ歌

 

作者;式子内親王

 

 

私の病気が重くなりました。

もう、

人生の黄昏時を迎えております。

 

声もしわがれてきたし、

人付き合いなども疎遠になっております。

 

私の家の軒に近いところに

荻が群生していて、

葉のこすれあう音がしています。

 

ともすると、

秋の穂が出る前に

私の命が尽きてしまうかもしれません。

 

秋の穂が出るのを

見ることができるかどうか

心の中で

荻に尋ねたり

自問自答したりしていますよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『源氏物語』(夕顔・光源氏の歌)に

「ほのかにも軒場の荻を結ばずは露のかごとを何にかけまし」

という歌があります。

275番からずっと、

『源氏物語』に出ている歌を参照した内容が

続いています。

 

 

題詞には「百首の歌」とだけ書かれていて

どの時の「百首の歌」なのか明確ではありませんが、

1200年、後鳥羽院主催の

「正治二初度百首」の可能性が高いと思われます。

 

だとすると、

作者(式子内親王)は、

この歌を詠んだ翌年、病気のために亡くなっています。

 

式子内親王;1149~1201年1月25日(享年53)。

1159〜1169年、賀茂斎院。

後白河天皇の第三皇女。高倉天皇の異母姉。

1199年5月頃から身体の不調。年末にかけてやや重くなる。

1200年後鳥羽院の求めに応じて百首歌をよみ、

藤原定家に見せている。間もなく病状が悪化。

 

 

たそがれ:夕方の薄暗いころ。夕方。夕暮れ時。

たそ:誰か。誰だ。

かれ:あれ。あのもの。あの人。

かれ:それゆえ。それで。

かる:枯れる。干からびる。干上がる。声がしわがれる。

かる:離れる。遠ざかる。隔たる。足が遠くなる。間があく。疎遠になる。よそよそしくなる。

かる:草などを切り取る。狩りをする。借りる。追い払う。追い立てる。

 

のきば:軒に近いところ。

のく:その場から離れる。立ち去る。退く。地位を退く。関係を離れる。身を引く。手を引く。縁が切れる。

は:羽。

は:はし。へり。

 

をぎ:水辺や湿地に群生し、すすきに似た植物。和歌では、秋風に吹かれてすれ合う葉の音を詠むことが多い。

 

ともすれば:どうかすると。なにかというと。ともすると。

ともす:点火する。火をつける。明かりをつける。

 

ほ:火。帆。百。穂。

ほ:高く秀でている物。他より優れているもの。表面に出るもの。目立つもの。

ほにいづ:穂が出る。穂に実をむすぶ。表面に出る。人目につくようになる。目立つようになる。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

した:下部。下の方。地位や身分が低いこと。若いこと。能力が劣ること。内部。内側。内心。心のなか。

 

こととふ:言葉をかける。話をする。質問する。尋ねる。訪問する。見舞う。手紙を書く。手紙を送る。