《新古今和歌集・巻第二・春歌下》

 

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寛平御時、后の宮の歌合の歌

読人しらず

待てといふにとまらぬものと知りながらしひてぞ惜しき春の別れは

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

寛平の御代の后の宮の歌合の歌

読人しらず

待ってくれと言ってもとまらないものと知りながら、

むやみに惜しく思われることだ。

春との別れは。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;889年、班子女王(宇多天皇の母・光孝天皇の女御)の邸宅で

催された「寛平御時后宮歌合」の歌

 

作者;黄泉の国に逝った人に贈る

 

 

「待ってくれ!死なないでくれ!」と

 

泣きながら名前を呼んでも、

 

人が亡くなることを止めることはできない。

 

そんなことは、わかっています。

 

でも、春の別れは

 

むしょうに名残惜しい気持ちになるのですよ。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

889年に催された歌合の歌。

この歌が詠まれた当時、

889年1月24日に仁子内親王が亡くなっています。

が、

『新古今和歌集』のこの場所に、

わざわざこの歌が挿入されているのには理由があります。

年代は違っても、

式子内親王への弔意を表現するのに

ぴったりの歌だから、

この場所に置いたのでしょう。

『新古今和歌集』内では、

前後の歌が式子内親王の死について

詠まれています。

 

 

仁子内親王:?〜889年1月24日。

嵯峨天皇の皇女。

嵯峨天皇の治世下の伊勢斎宮。

 

 

よみ:黄泉

しらず:わからない。検討がつかない。〜はともかく。〜はいざしらず。

まつ:待つ。松。

 

いふ:言う。話す。名付ける。呼ぶ。噂をする。評判になる。詩歌をよむ。言いよる。求婚する。鳴く。区別する。わきまえる。

 

とまる:動かなくなる。立ち止まる。中止になる。取りやめになる。後に残る。生き残る。目につく。引きつけられる。印象付けられる。停泊する。宿泊する。

 

しる:理解する。わきまえる。経験する。感じる。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。

しる:統治する。治める。領有する。

 

ながら:〜まま。〜ながら。〜つつ。〜のに。〜けれども。〜だが。〜ながらも。〜のとおりに。〜のままに。

しひて:無理に。無理矢理に。むやみに。むしょうに。

をし:愛おしい。愛らしい。かわいい。惜しい。捨てがたい。名残惜しい。

 

はる:春。新年。正月。

はる:一面に広がる。芽が出る。芽吹く。強く盛んになる。張り合う。緊張する。たるまないように引っ張る。広げる。貼り付ける。設ける。仕掛ける。たたく。打つ。

はる:晴天になる。心が晴れる。心がすっきりする。晴れ晴れする。ひらけている。見晴らしがいい。広々としている。

はる:開墾する。

はるか:遥かに遠い。遥だ。

はる:春宮

 

わかれ:別離。死別。

わかる:別々になる。分離する。遠く離れる。離別する。死別する。