《新古今和歌集・巻第一・春歌上》

 

87

和歌所にて歌つかうまつりしに、春歌とてよめる

寂蓮法師

葛城(かづらき)や高間(たかま)の桜咲きにけり立田の奥にかかる白雲

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

和歌所で歌を詠んでさしあげた時、春の歌として詠んだ歌

寂蓮法師

葛城の高間山の桜が咲いたことだ。

立田山の奥にかかって、それを思わせる白雲よ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1202年3月に後鳥羽院主催の「三体和歌」の会の時、

「春の歌」として詠んだ歌。

 

作者;寂蓮法師

 

 

式子内親王(1201年1月没)(後白河天皇の第三皇女)に続き、

藤原多子(1201年12月没)(近衛天皇・二条天皇の后)までも

神々が住む天上の世界(天国)へと

旅立って逝かれました。

わずかな期間のうちに、次から次へと高貴な方々が亡くなり、

耐えがたく辛い気持ちです。

彼女たちは、葛城の高間山に咲く桜のように

美しい方々でした。

しかし、花が散るようにこの世を離れて逝かれたのです。

大事な人を亡くした宮中の奥の間では、

また、私たちの心の中では、

山に白い雲がかかって視界が遮られるように

気が滅入り、

涙で目の前が霞むことですよ。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

和歌所;1202年2月「影供歌合」

後鳥羽院に歌を詠んでさしあげた。

1202年3月に後鳥羽院主催の「三体和歌」の会の時の作。

「三体和歌」の会は、

春、夏、秋、冬、恋、旅の六首の歌を

三体に詠み分けた催しで、

春、夏は「太く大きい」趣に詠んだ。

 

寂蓮法師:1139年?〜1202年7月20日(享年64)。

俗名は藤原定長。

1159年頃、叔父(藤原俊成)の養子となる。

30歳で出家。

『新古今和歌集』の撰者となるが、完成を見ずに亡くなった。

 

藤原多子(まさるこ):1140年〜1201年12月24日(享年62)。

近衛天皇の皇后。二条天皇の后。

「二代の后」と呼ばれた。

父は、徳大寺公能。

母は、藤原豪子。

養父は、藤原頼長。

養父は、藤原幸子。

 

式子内親王:1149年〜1201年1月25日(享年53)。

後白河天皇の第三皇女。

母は、藤原成子。

後鳥羽院は、後白河院の孫。

 

 

かづらぎやま:奈良県と大阪府の間にある金剛山地の山々。

 

かつ:一方では。すぐに。次から次へと。ちょっと。わずかに。すでに。前もって。あらかじめ。そのうえ。それに加えて。

つらし:薄情だ。冷淡だ。たえがたい。つらい。

かづら:つるくさ

かづら:つる草や草木を髪に巻いて飾りにしたもの。女性の髪が少ない時にそえるもの。

かづらく:つる草や草木の枝・花などを髪飾りにして頭につける。

たかまのはら:神々が住むと言われた天上の世界。

たかし:高い。声が大きい。高貴だ。すぐれている。自尊心がある。気位が高い。広く知られている。評判が高い。月日がたっている。老いている。

ま:目。すきま。間。

 

さく:遠くへやる。放つ。遠ざける。引き離す。

さく:切り離す。割る。引き裂く。切れて分かれる。割れる。裂ける。

さく:無事に。変わりなく。つつがなく。幸に。

さぐ:つるす。ぶら下げる。垂らす。おろす。低くする。後ろへさげる。退かせる。退出させる。格下げする。見下す。見下げる。侮る。

くらす:心を暗くする。悲しみに暮れさせる。

くらす:日が暮れるまで時を過ごす。過ごす。月日を送る。生活する。日が暮れるまで〜する。〜続けて1日を過ごす。

 

たつ:立ち上がる。起立する。現れる。立ち上る。飛び立つ。出発する。旅立つ。はっきり見える。時季がくる。時間が過ぎる。高く響く。評判になる。名声があがる。止まっている。位に就く。切れる。冴える。激昂する。設置する。有名になる。評判を立たせる。生じさせる。起こす。出発させる。派遣させる。飛び立たせる。時間を経過させる。突き刺す。閉じる。専門とする。維持させる。建てる。目や耳を働かせる。

たつ:切り離す。断ち切る。習慣をやめる。裁断する。

たつたやま:紅葉の名所。

 

おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。起きる。寝ないでいる。起きている。

おく:霜が降りる。置く。すえる。設置する。そのままにする。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。前もって〜しておく。

おく:奥まったところ。奥の方。奥の間。貴人の妻。奥方。心の奥。心中。終わり。末尾。将来。行く末。

 

かかる:ぶら下がる。もたれかかる。頼みにする。世話になる。頼る。すがる。目につく。心にとまる。停泊する。覆い被さる。降りかかる。関係する。かかわる。熱中する。悪いことが身にふりかかる。巻き添えをくう。危害を受ける。殺される。傷つけられる。襲いかかる。さしかかる。通りかかる。至る。なる。〜し始める。〜しそうになる。

かかる:このような。こんな。

しらくも:白雲

しらく:白くなる。興ざめがする。気分がそがれる。しらける。具合が悪くなる。決まりが悪くなる。気まずくなる。打ち明ける。明白にする。

しらぐ:たたく。鞭打つ。精米する。仕上げる。