天皇(てんわう)、

蒲生野(かまふぬ)に遊猟(みかり)するときに、

額田王(ぬかたのおほきみ)の作る歌


額田王


あかねさす紫野(むらさきぬ)行(ゆ)き標野(しめぬ)行き野守(のもり)は見ずや君が袖(そで)振る

 

(万葉集・巻第一・20)

 

=====【教科書『国語総合』(桐原書店)の訳】=====

天智天皇(兄)が蒲生野でみ狩りをするときに、額田王が作る歌

額田王

紫草が栽培している野を行き、御料地の野を行き、

野の番人が見はしないでしょうか。

あなたが私に向かって袖を振るのを。

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☆☆☆☆☆☆【和歌コードで読み解いた新訳】☆☆☆☆☆☆

 

(※『和歌コード』とは、この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

題詞: 天智天皇が、良い香りが漂う野(蒲生野)に行く計画を立てた。

その計画とは、弟(大海人皇子)の嫁である私(額田王)と

共寝をするために

「狩り」を口実に周到な計画を立てたもの。

私の美しい身体を借り、

一時的に自分のものにするために

あらかじめ夫や他の人を締め出してその日を待ち構えていた。

このことの顛末を

額田王(天智天皇に額づいて寵愛を受けた私)が詠みます。

 

作者: 額田王

(大海人皇子と結婚して子もいたが、

後に天智天皇の寵愛をうけることとなった額田王)

 

 

天智天皇が計画した「あの日のたくらみ」を

明らかにします。

紫草野に行こうと誘われたその日は、

野に咲く白い花が、茜色に染まって美しい日でした。

私に想いを寄せていた白い花(天智天皇)の頬は、

茜色に紅く染まっていて、

はっきりと、彼が私を想う気持ちが香りとなって漂っていました。

彼が私と共寝したいという意図が

空気中に満ち満ちていました。

私と共寝する計画を実行するために、

天智天皇は、

紫色の服を着たあなた(大海人皇子)を、

巧妙に私から遠ざけ、

誰も入って来ることができない紫草野に私を連れて行き、

自分のものとしたのです。

野の番人は、

以前から天皇が私に好意を示して、

袖を振っていたのを見ていたはず。

そして、私はその誘いを断っていたことを知っていたと思うのだけれど…。

(野守の立場では、言えないわよね。)

 

 

※長文になるため、「解説」は【次の記事】に掲載します。

 

 

 

てんわう:四天王。インドの祇園精舎の守護神。

てん:空。大空。造物主。天帝。自然の道理。自然の法則。天命。天井界。

わう:国の君主。国王。天皇の子や孫。

か:良いと認めること。良いこと。

か:香り。におい。

まふ:舞を舞う。回る。

かまふ:築く。組み立てる。前もって用意する。あらかじめ準備する。たくらむ。計画する。もくろむ。身構える。待ち構える。身支度する。支度をする。関係する。かかわる。相手をする。面倒を見る。

ぬ:野原。

ぬ:寝る。男女が共寝する。

み:美しい。立派な

み:からだ。身分。自分自身。命。本体。中身。海。

みか:三日間。三日目。

かり:一時的なこと。間に合わせであること。かりそめ。

かり:山野で鳥獣や草木を採集、鑑賞すること。

かる:切り取る。刈り取る。

かる:狩りをする。花を探し求めて鑑賞する。

かる:借りる。

かる:追い払う。追い立てる。馬を走らせる。

ぬかたのおほきみ:大海人皇子(後の天武天皇)に愛されて十市皇女を産んだが、後に天智天皇に寵愛される。

ぬか:ひたい。額をつけて礼拝すること。ぬかづくこと。

かた:方向。方位。場所。部屋。方法。手段。片方。組。ころ。時節。(高貴な)お方。

かた:形状。ありさま。模様。肖像。形跡。痕跡。しきたり。肩。

 

あかね:植物の名。根から赤色の染料をつくる。また、その染め色。

あかねさす:茜色に美しく映え輝く意の枕詞。

あか:まったくの〜。はっきりした〜。

あが:私が。私の。

あかねさす;たくらみが明らかになる

あかす+ね;明らか+泣き声

か:香り。におい。

かぬ:兼ね備える。兼ねる。予想する。一定の範囲にわたる。

かね:金属。金銭。釣り鐘。

ね:声。鳴き声。音。根。根本。物事の根源。山の頂上。みね。

ね:「寝(ぬ)」の已然形。男女が共寝する。

さす:光が直射する。さしこむ。草木が芽をだす。潮が満ちてくる。雲がわく。指し示す。目指す。定める。指名する。傘をかざす。設置する。前方に伸ばす。

さす:突き刺す。

さす:注ぎ込む。日を灯す。色をつける。塗りつける。

さす:さしはさむ。さしいれる。(髪に櫛を)さす。

 

むらさき:植物の名。山野に自生し、夏、白い花(白は天皇の服の色)をつける。

根から染料をとる。紫草。赤紫色。高貴な色。

むらさきの:紫草を栽培している野原。一般人は立ち入り禁止の御料地。

むらさき:官位の服の色から、紫色は大海人皇子のこと。ちなみに、天皇の服の色は白。

さく:遠くへやる。放つ。遠ざける。引き離す。

さく:切り離す。割る。引き裂く。

ゆき:行くこと。旅。

しめの:一般の人の立入を禁止した野。

しむ:自分のものとして占有する。

のもり:野の番人。

みる:目にする。見て判断する。会う。経験する。試みる。世話をする。

きみ:天皇。主人。あなた。

きみ:香りと味。味わい。気持ち。気分。

そでふる:(合図を表して)袖をふる。

ふる:さわる。触れる。男女が慣れ親しむ。関係する。出会う。言いふらす。

ふる:降り動かす。顔をそむける。男女関係で相手にしない。振り捨てる。