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【本文】
また、住吉のわたりを漕ぎ行く。ある人のよめる歌、
今見てぞ身をば知りぬる住江の松より先にわれは経にけり
ここに、昔へ人の母、一日片時も忘れねばよめる、
住江に船さし寄せよ忘草しるしありやと摘みて行くべく
となむ。うつたへに忘れなむとにはあらで、
恋しき心地、しばしやすめて、またも恋ふる力にせむ、となるべし。
【しじまにこオリジナル「和歌コード」的翻訳】
また、住吉の辺りを漕いで行く。
ある人の詠んだ歌は、
今、まさに見えてきたこの風景。
住江の松は、船が往来する水路をよく知っている。
そして、松は、私たちが来るのを待っているのだ。
いま、ようやく、
船が進んで行く方向にある岬の先端のところを
私たちは通り過ぎたよ。
その時、子を亡くした母親が、
一日たりとも、片時も
亡き娘のことを忘れることができずに
歌を詠んだ。
住江に船を寄せてください。
忘れ草のご利益があるだろうと思うのです。
亡き娘のことを忘れることができるよう、
忘れ草を摘んで行きたいのです。
と詠んだ。
これは、
必ずしもことさらに忘れたいということではなく、
亡き娘を恋しいと思う気持ちを少しの間、やすめて
また再び娘を大事に思う力にしようとしているのだ、と感じた。
【古語の意味】
いま:現在。新しいこと。ただ今。目下。今すぐに。まもなく。やがて。そのうちに。さらに。もう。なお。新しく。新たに。今度。
み:身体。身分。身の上。自分自身。我が身。命。中身
み:海
みる:目にする。見て判断する。会う。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。
みを:船が往来する水路。
まつ:松。待つ。
ふ:時間が経つ。月日がたつ。通る。通っていく。経験する。
さき:先端。先頭。進んで行く方向。前方。岬。
しるし:ご利益。効果。効き目。前兆。証拠。
うつたへに:決して。全然。必ずしも。ことさら。
⭐️✨⭐️次回へつづく…⭐️✨⭐️