《新古今和歌集・巻第一・春歌上》
21
題知らず
読人しらず
今さらに雪降らめやもかげろふの燃ゆる春日(はるび)となりにしものを
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
題知らず
読人しらず
今になって雪の降ることがあろうか。
陽炎の燃える春の日となってしまったのに。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞と作者;題も作者も伏せておきますが、
黄泉の国へいかれた基王についての歌
今さら、
雪が降るように大泣きに泣いても
季節が戻って雪が降るようなことは起こらないだろう。
聖武天皇と光明皇后の間に生まれた男子(基王)は
春宮となるはずだったが、
かげろうのように儚い命は燃え尽きて亡くなってしまった。
遥か彼方、天国へ旅立たれた春宮となってしまったのですから。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「赤人集」「古今六帖」にある歌と同形。
「万葉集」の原歌は
「今更に雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春べとなりにしものを」
この歌とこの前の歌(20番)は、
どちらも「万葉集十」におさめられています。
21番のこの歌は「よみ人しらず」ですが、
「赤人集」にもおさめられています。
20番の作者、大伴家持と
21番の作者、山部赤人の共通点を調べると
どちらも聖武天皇の御代に活躍していることが分かりました。
そこから、この歌に関連する歴史的事実を探しました。
聖武天皇と光明皇后の間に生まれた唯一の男子は基王(もといおう)です。
待望の男子を得た天皇に喜びはひとしお。
生後わずか32日で皇太子に立てられます。
天皇や皇太子は、成人であることが求められた当時としては
きわめて異例な措置でした。
しかし、翌年には病気となり、生後1年に満たずに夭逝します。
(基王生没年:727年閏9月29日~728年9月13日)
聖武天皇と光明皇后の間にはついに男子が育たなかったので
子息は阿倍内親王(孝謙天皇)のみでした。
738年1月13日、阿倍内親王が立太子。
史上唯一の女性皇太子となります。
20番、21番の歌は「春」の歌ですので、
1月13日、女性が立太子したことがテーマだと
思われます。
いまさら:今となってはもう必要ない。今となっては仕方がない。今改めて。今となってまた。今初めて。今新たに。
ゆき:雪。逝き。泣いている。
ふる:雪が降る。振る。震る。経る。古くなる。
やも:~か、いや~ない。どうして~か。~かなあ。
かげ:光。姿や形。面影。影法師。痩せ衰えた姿。やつれた姿。虚像。幻影。影のように寄り添って離れないもの。死者の霊、魂。
かげろふ:とんぼ。はかないもの。
かげろふ:ちらつく。ちらちらする。ほのめく。光が遮られて陰になる。かげる。
もゆ:燃える。火がついて炎や煙がたつ。光を放つ。輝く。情熱が高まる。心が高ぶる。
はるび:「はらおび」の変化した形。馬具。
はるひ:春の一日
はる:春宮。遥か。晴れる。張る
となり:~ということだ。
なる:生まれる。生じる。実る。成立する。成就する。変化する。落ちぶれる。達する。御出でになる。おでましになる。
ものを:~のに。~ものの。~けれど。~だなあ。~のになあ。~ものだなあ。