奥山のすがの根しのぎ降る雪の下
けふ人を恋ふる心は大堰川流るる水におとらざりけり
〈古今和歌集 付載 墨滅歌 巻第十一 恋歌一 1106〉
++++【古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳】++++
今日、あの人を恋しく求める心は、
大堰川の流れる水の勢いに
劣らないものでありますよ。
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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□
(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;テーマは言えません。
(密通と左遷のことなので)
作者;私の名は伏せておきます。
(藤原有貞と密通した三国町です。)
仁明天皇の更衣、
三国町と密通したことで、
藤原有貞は左遷されてしまいました。
今日も、あの人を恋しく想う気持ちは、
大堰川の激しい水の流れのよう。
宮中の波風は治ったけれど、
左遷された彼を想って、
私の目からは
川の流れに劣らないほど
大量の涙が伝い落ちることです。
□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□
551のあとの二首が1106と1107です。
551
仁明天皇の更衣、三国町と密通し、
左遷された藤原有貞の返歌だと読み取れます。
雪が降っている光景は、
雪のように大粒の涙を流している様子の比喩です。
550
三国町(仁明天皇の更衣)が密通した藤原有貞が
常陸に左遷されたのは
845年正月11日という記録があります。
正月は春。
淡雪は冬の季語。
冬の寒い日に、遠くに左遷された恋人を思って
詠んだ歌だと思われます。
けふ;本日。今日
げふ;仕事。職業。勤め
こふ;恋い慕う。乞い願う
ふる;泣く。異性を振る
大堰川;歴代天皇の行幸の地
おほ;大きい。多い。甚だしい。普通だ。ぼんやりしている
ゐる;伴う。引き連れる。携帯する。座る。とどまる。波風がおさまる。住む。いる。地位に就く。生ずる。雲がかかる。怒りが鎮まる。~てじっとしている。
かは;泣いている。交わす
ながる;流れる。漂っていく。涙が伝い落ちる。時が過ぎる。伝わっていく。めぐる。流罪に処せられる。左遷される。
おとる;ひけをとる。他に及ばない。身分が低い。減る。損をする