寛平の御時の后宮の歌合の歌

とものり

蝉の声きけばかなしな夏衣うすくや人のならむと思へば

 

 

〈古今和歌集  巻第十四   恋歌四    715〉

 

 

++++【古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳】++++

 

蝉の声を聴くと悲しくてたまらない。

夏の衣が薄いようにあの方のお心も

薄っぺらなものになりそうだと思うと。

 

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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□

 

 

(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

題詞;889年、班子女王の邸宅で開かれた寛平御時の歌

 

作者;紀友則

 

 

絞り出すような

苦しそうな泣き声を聞けば

可哀想で、気の毒だと思いますよ。

薄い夏衣のように

 

①身体が透けて見えなくなってしまわれる

(亡くなって天国へいかれる)のだと思うと。

 

または、

 

②薄情にも心変わりして

他の女性の元へ行ってしまったのだと思うと。

 

 

□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□

 

寛平御時の歌は、889年に、

光孝天皇の女御、宇多天皇の母であられた

班子女王の邸宅で開かれたもの。

 

①887年8月26日(秋)に亡くなった光孝天皇のことを

詠んでいると思われます。

 

または、

 

②この前の歌まで、

薄情に心変わりする男性の気持ちがうたわれていたので

そのことを言っているとも取れます。

 

 

せみこゑ;絞り出すような声。絞り出すような苦しそうな声

せみ;蝉。滑車

こゑ;泣き声

きく;うまく働く。役に立つ。上手である。優れている

きく;聞く。聞き入れる。尋ねる。問う。味や香りを試す。

かなし;切ない。かなしい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。悔しい。ひどい。かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。見事に。うまく。

なし;無し

ななつ;七歳。七。午後4時ごろ

なつころも;単衣で薄いことから「うすし」にかかる

なづ;なでる。いつくしむ。かわいがる

ころ;妻や子ども

ころも;衣

うすし;薄い。浅い。浅はかだ。薄情だ。少ない

すく;好色である。多情である。物好きである。

すく;隙間ができる。まばらになる。すける。通り抜ける。食べる。くしけずる。髪をとかしそろえる。

なる;成る。生る。うまれる。慣れる。成就する。実る。就任する

ならむ;~だろう