右近の馬場のひをりの日、
むかひにたてたりける車のしたすだれより、
女の顔のほのかに見えければ、よむでつかはしける
在原業平朝臣
見ずもあらず見もせぬ人のこひしくはあやなく今日やながめくらさむ
〈古今和歌集 巻第十一 恋歌一 476〉
++++【古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳】++++
見ないわけでもない、といって見たわけでもない、
という程度にちらりと見えたあなたが恋しいので、
こうして意味もなく一日中物思いにふけりつつ
戸外を眺めてくらすことになるにでしょうか。
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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□
(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;在原業平が清和朝で右馬頭を勤めていたときのこと。
5月6日に右近衛府の舎人が宮中の馬場で競べ馬の儀式を行った。
向かい側に停めていた牛車の下すだれから
在原業平と昔付き合っていたが強引に引き離された
藤原高子(清和天皇の女御)のお顔が少しだけ見えたので、
歌を詠み、人に持って行かせた
作者;在原業平
瑞々しく生き生きとして美しいあなたはもう僕の側にはいない。
想いあっていたのに、結婚できなかったあなたの事を
ずっと恋しく想っておりました。
今日、仕事をしながらあなたの姿を遠くから拝見して、
二人が引き離された頃の虚しい気持ちが蘇りました。
私は、長い間あなたを想って、心を暗くし、
長雨が降り続くようにずっと泣いていたのです。
今日は、あなたの姿を遠くから眺めて
ぼんやりと物思いにふけりながら
この歌を詠んでいますよ。
□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□
在原業平は、清和朝の865年に右馬頭に任命されています。
清和天皇の女御は、過去に禁断の恋をして
引き離された藤原高子です。
ひをりの日とは、5月5日に左近衛府の舎人が、
5月6日に右近衛府の舎人が宮中の馬場で
競べ馬や騎射をする儀式です。
ひをり;5月5日に左近衛府の舎人が、5月6日に右近衛府の舎人が宮中の馬場で
競べ馬や騎射をする儀式
むかふ;向かい合う。向き合う
したすだれ;貴人や女性が乗る時に中が見えないようにした牛車のすだれ
ほのか;ぼんやりしている。わずかだ
みづ;瑞々しく生き生きとして美しい様子
あり;居る
みる;異性と関係を持つ。結婚する
こひし;慕わしい。恋しい。
あやなし;つまらない。むなしい
けふ;今日
げふ;仕事。勤め
くらす;心を暗くする。悲しみにくれさせる
くらす;過ごす
ながむ;物思いに耽る。ぼんやりと見やる。遠くを見る
ながむ;口ずさむ。詩歌をよむ
ながめくらす;物思いにふけって一日暮らす