志賀の山越えにて、いし井のもとにて、

ものいひける人の別れける折によめる

つらゆき

結ぶ手のしづくににごる山の井のあかでも人に別れぬるかな

 

〈古今和歌集  巻第八  離別歌    404〉

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆(訳者・小沢正夫・松田成穂・小学館)の訳】☆☆☆☆

 

志賀の山越えの時に、

山の井のほとりで言葉を交わした人と別れる時に

詠んだ歌

紀貫之

掬い上げる掌からこぼれる雫で

すぐに濁ってしまうほど

浅く少ししかない山の井の水のように、

私は物足りない思いのまま、

あなたにお別れということになりました。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;数年で廃都となった志賀の大津宮。

大津宮に出仕していた男が、

山を越えて帰るときの歌。

男は、優れた美しい井戸のところに住む女と

情を通わせていた。

その美しい女性と別れ別れになる時に詠んだ歌

 

作者;紀貫之

 

 

泣きながら

あなたの手を握りしめることしかできないよ。

つなぎ合わせた二人の手の上に涙が滴り落ちている。

心が深く沈み、

濁った水のように暗い気持ちになることだ。

男は大津宮で階級に就いていたが、

数年で廃都となったので

十分な仕事をしないうちに臣下たちとも

別れることになった。

あなた(女性)とも、

心ゆくまで一緒に過ごすことができず、

こうして別れ別れになってしまう。

気持ちが落ち込むことです。

今日からは涙に濡れて一人で寝ることになるのですよ。

 

 

□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□

 

志賀を辞書で調べると、大津宮が出てきます。

大津宮は、五年で廃都となった都。

和歌コードで読み解くと、

「山の井」は、「皇室の階級」と読むことができ、

「あかでも」は、「心ゆくまで~できずに」。

これらの意味と合わせて考えると、

「皇室に仕えていたが、数年で廃都となり

人々が別れ別れになっていく様子」が描かれているものと

解釈できます。

 

しか;雄鹿

しか:そのように。そう。そうだ。そのとおりだ。

 

志賀;大津宮。数年で廃都となった。

 

やまごえ;山を越えること。

こゆ:山や谷を越えること。年や月が変わる。上回る。まさる。追い越す。

 

やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっているところ。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。

 

いしゐ:岩の間から湧き出る清水。岩間の泉。石で囲った井戸。

いし:岩石。庭石。墓石。

いし:椅子。

いし:よい。優れている。見事だ。上手だ。関心だ。けなげだ。うまい。おいしい。美味だ。

 

もと:根本。よりどころ。基本。草木の根元。幹。以前。昔。原因。はじまり。起源。上の句。住居。付近。そば。資金。

 

ものいふ;男女が情を通わせる

わかる;別れ別れになる。離別する

 

むすぶ:形をなす。できる。固まる。つなぐ。繋ぎ合わせる。結び合わせる。網などを編んで作る。庵を作る。生じさせる。形作る。人との関係を作る。契る。契約する。両手の指で印を作る。

むすぶ:両掌ですくう。

むす:喉に食べ物をなどがつまる。むせる。悲しみなどで胸がつまる。むせぶ。

 

て:手。手首。手のひら。指。取手。技術。書風。筆跡。弾き方。手振り。所作。手法。技量。手数。世話。交際。関係。負傷。痛手。部下。手下。方角。

 

しづく;滴り落ちる水滴。涙

しづく;深く沈んでいる

 

にごる;心が不純になる。けがれる

 

やまのゐ:やまゐ:山の中の清水の湧き出る場所。

やまひ:病気。欠点。短所。気がかり。

やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっているところ。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。

ゐ:位階。井戸。

 

あかで:物足りなく。満ち足りずに。満足しないで。

 

ひと;夫婦などの親しい間柄であなた。臣下

ぬる;寝る

ぬる;濡れる

かな;~だなあ。~であるよ。