人の花山に詣で来て、夕さりつかた、
帰りなむとしける時によめる
僧正遍照
夕ぐれのまがきは山と見えななむ夜は越えじとやどりとるべく
〈古今和歌集 巻第八 離別歌 392〉
++++【古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳】++++
夕暮れの薄明かりの方で、
垣根は山のように見えてしまってほしい。
そうすると客人は夜は山をこえないでおこうと、
ここに宿をとってくれるに違いないから。
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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□
(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;ある人が僧正遍照の住む花山寺にお越しになったのだが、
夕方になると帰ろうとされたので
今夜はここに泊まっていってほしいという気持ちで
詠んだ歌
作者;花山に住む僧正遍照
日が沈んで暗くなった頃にあなたを送り出すのは、
心が乱れ惑い、涙で目が見えなくなります。
日が暮れると災いの気が多く充満するので、
山から恐ろしい餓鬼がやってくるように
思えてしまってほしいよ。
そうすれば、あなたは
夜に山を越えるのはやめておこうと
ここに宿をとってくれるに違いないもの。
(また、この歌は、
夕方に誰かが亡くなろうとしていたことも詠んでいる。)
夕方になると、悲しみの涙で目の前が暗くなります。
「とうとうあなたが亡くなってしまうのではないか」という
悪い予感が、私の心の中で山のように大きくなるのです。
しかし今夜は、
死の山を越えていく(亡くなること)ことなく、
この世界に留まってくださるはずです。
□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□
僧正遍昭は、花山法師とも号しています。
直訳は、
花山に誰か親しい人物が訪ねて来た時に、
泊まっていけばいいのに…という気持ちを詠んでいます。
和歌コードでは、
誰かが命を落とそうとしているときに
「まだ向こうの世界に行く山を越えないでほしい」という意味を
複合的に持たせているのだと読み取れます。
おなじ山:花山。
まできて:まうできて:まうでく:参上する。伺う。参ります。来ます。
夕さりつかた;夕方の頃
くる;涙で目が見えなくなる。心が乱れ惑う
まがき:竹や柴で作った垣根。
まが;悪いこと。災い
がき;餓鬼
やま;多くの。陵。
やまと見えななむ:山だと見えてほしい。
みゆ;思われる
ななむ;~てしまってほしい
よる:基づく。原因となる。影響を受ける。かかわる。応じる。従う。
よる:近づく。接近する。集まる。寄り合う。訪れる。立ち寄る。心ひかれる。好意を寄せる。頼りにする。もたれかかる。物の怪が取り付く。乗り移る。寄付される。
よる:よじれる。しわになる。
よるは越えじ:夜は山を越えて帰ることはすまい。
こゆ;山を越える
じ;~ないだろう。(打消の意思)
やどり;泊まる宿
べし;~にちがいない。~はずだ
やどりとるべく:あなたが私の家に泊まってくださるように。
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===========《解説》===========
古今和歌集・離別392
古今六帖
新撰和歌
おなじ山:花山
まで来て:まうで来て
まがき:柴や竹などで編んだ垣根
山と見えななむ:山だと見えてほしい
夜は越えじ:夜は山を越えて越えることはすまい。
やどりとるべく:あなたが私の家に泊まってくださるように。
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《参考文献》
◉『和歌文学大系18』(明治書院)
小町集/業平集/遍昭集/素性集/伊勢集/猿丸集
久保田淳・監修
室城秀之・高野晴代・鈴木宏子・共著