東歌
作者未詳
多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだかなしき
(万葉集 巻十四・3373)
=====【教科書『国語総合』(桐原書店)の訳】=====
東歌
作者未詳
多摩川にさらす手織りの布ではないが、
さらにさらに
どうしてこの娘はこれほどまでにいとおしいのか。
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☆☆☆☆☆☆【和歌コードで読み解いた新訳】☆☆☆☆☆☆
(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞: 私の夫が労役に割り当てられたときに詠んだ歌
東国地方の住民の苦悩を詠む
作者: 匿名希望
多摩川のほとりで、
玉のような涙が川のように流れてとまらないよ。
これから多摩川を下って労役に出ようとする人たちを
たくさんの人が泣きながら見送っている。
労役の命令は避けることができず、
どうしても行かなければならないもの。
私は泣きながら夫のそばを離れられずにいる。
手作りの衣服や食料を整え、人々がざわざわと集まり、
船が出る時を待っている。
私の夫も、周囲の人の家でも、
何度もなんども労役が課されている。
なぜこんなに何回も、最下層の生活をしている私たちが
労役に従事しないといけないのか。
生活が苦しい上に夫を連れて行かれ、
切なく、悲しく、苦しみが増すばかりだ。
◇◇◇◇◇◇【和歌コード訳の解説】◇◇◇◇◇◇
万葉集巻十四は、東歌230首が収録されています。
すべて作者不詳なのですが、内容をみると、
作者名を言うわけにはいかない意味がわかりますね。
匿名希望で詠まれた歌です。
あずま;京都から鎌倉
あずまうた;東国地方の人の歌。
あ;私
つま;夫
あつ;人に何かあてがう
たま;涙。魂
多摩川;東京都と神奈川県の境目を流れる川
かはづ;かはず。カエル。鳴いている
さらす;多くの人の目に触れるようにする
さらさら;ざわざわ。スラスラ
さらに;新たに。ますます。いよいよ
なに;なぜ
そこ;一番下の部分
そこ;その場所。おまえ
こ;親しみを込めて呼ぶのに用いる。その仕事に従事する人のこと
ここだ;これほど多く。程度がひどく。たいそう。これほど。こんなにも
かなし;悲しい。切ない。気の毒だ。貧しい。生活が苦しい