2000年代以降、うつ病や自殺する方が急増したことで、国を挙げてその予防や啓発がなされるようになりました。そのおかげで、ずっと3万人台だった自殺者数は、3万人を切るようになりました。精神的な悩みを抱えることは誰にでも起こりうること。そういう理解は少しずつ広まってきたように感じます。精神科、心療内科へ受診する方の数が増加しているのはその証だと思います。一方、精神科や心療内科にかかることについて、偏見を抱く人もいるでしょう。メンタルな問題を抱えているのではないか?と思う人がいたとします。それをみて、受診を勧めるべきかどうか。その判断のポイントは、「日常生活に支障を来しているかどうか」です。夫として、妻として、親として、会社員として、地域の構成員として、など色々果たすべき役割を我々は担っています。それらの役割を果たすことがうまく出来ない。その背景に精神的問題がありそうだ。そういう場合には、精神科や心療内科への受診を考えるべきだと思います。
その時、いきなり「あなた、精神科にかかりなさい」とは言えないですよね。その人がどんな悩みを抱えているのか、知らないと本当に精神科や心療内科にかかるよう勧めるべきかどうか分かりません。本人の状態を把握するため、話を聞く必要があるでしょう。そのやり方を「メンタルヘルス・ファーストエイド」といいます。
「メンタルヘルス・ファーストエイド」は5つの基本ステップからなります。一つひとつを確実に行うことで、その人の抱えている問題を理解し、どのような初期支援を受けるよう勧めるかを考えることが出来るものです。このメソッドはオーストラリアのBetty A KitchenerとAnthony F Jormによって開発されました。以下にその5つのステップを示します。注意が必要なのは、この順番にこだわらないことです。順番だと、最初に自傷他害のリスクを確認することになります。これは最初に聞くには重すぎると思います。信頼関係を築いてから、自傷他害について確認するようにしましょう。自殺について確認することで相手を自殺に導くことはないと言われています。相手の死にたい気持ちを確認しないことで、相手が見捨てられたとか、大事に思われていないと感じる危険があります。色々と相手の悩みを聞くうちに、自分も重苦しい気分になるかもしれません。どうか、その時には一人で抱え込まずに、医療機関や保健所、市役所の福祉担当部署など次の社会資源につなげるようにしてください。(つづく)