あなたの知らないところに 

いろいろな人生がある。

あなたの人生が かけがえのないように
あなたの知らない人生も 
また かけがえがない。
人を愛するということは 
知らない人生を知るということだ。
灰谷健次郎 著『一人ぼっちの動物園』より

これは私が大好きな言葉です照れ
灰谷さんは弱い立場の人たちに常に優しいまなざしを向け続けた方でした。

こんな風に、誰かの人生を、自分の人生と同様に「かけがえのないもの」だと一人一人が思えたら、きっと差別やいじめはなくなるのではないかと思います。


相手を完全に知ることはできなくても、

できる限り想像することは可能です。


差別されたらどんな気持ちだろう

自分がいじめにあったらどうするだろう・・・


また、

「自分はあまり気にしないたちだけど、人一倍傷つきやすい〇〇さんだったら、こんな時どう考えるだろうか」

というように、相手の性格を踏まえた上で、相手の気持ちを想像することも可能だと思います。

 

誰もが自分のことだけでいっぱいいっぱいの世の中ですが、

結局のところ、人は一人では生きていくことができません。

自分も相手も大事にできて初めて、心地よく生きていくことができると思うのです。

 

ただ、相手の気持ちに寄り添いすぎてしまうのは、相手を大事にすることとはちょっと違います。


例えば災害や殺人などで、突然大事な人を奪われたというニュースを聞いた時、

亡くなられた方のご遺族の方の気持ちなってしまい、自分も一緒に落ちこんでしまう」

という人が少なからずいますが、ご遺族と全く同じ気持ちになることはできませんし、仮に同じ気持ちになったとしても、ご遺族とは関係のない人間が落ち込み、体調を崩してしまうことは、ご遺族にとって何の助けにもなりません。

ふさぎ込むくらいなら、募金のように現実的にご遺族のためにできることを考え、実行に移す元気を維持することの方が、ずっと良いと思います。

 

とはいえ、「自分が何者なのかかわからない」という人の中には、自分と他者との線引きができず自分が被災したわけではなくとも、あたかも自分自身に起こったことのように感じてしまう、という人が少なからずいらっしゃいます。

悲しいニュース、辛いニュースが飛び込んでくる度に、それらが全部自分の身に起こったかのように感じられてしまい、うつ状態になることもあります。

「自他の線引きができない」という人は、他者(特に母親か父親)が望む人間になろうと頑張ってきた人によくみられます。

親が望む子どもであるために、ひたすら自分らしさを抑え込んできたことで、本当の自分がわからなくなってしまい、周囲の人の感情に巻き込まれてしまうのです。

このような方は、まずは本当の自分を取り戻していく作業が必要で、カウンセリングもその助けになると思います。

 

また、子どもが親の顔色をうかがうことが多いのに対して、親は子どもに対する想像力に欠けていることが少なくありません


例えば、30才のNさんは、幼少期からずっと兄と比較されて育ちました。

母親は常にヒステリックで、不機嫌で、ちょっと気に入らないとすぐに子ども達(特にNさん)に当たり散らすタイプだったそうです。

夕食の際、不機嫌な母親を恐れ、黙って食事を摂っていたNさんは、母親から

「あんたは何でずっと黙っているの!今日学校であったこととか、お母さんに話すべきことがあるでしょ!」

と怒られ、必死に学校での出来事を話したそうですが、母親の機嫌が直ることはなかったそうです。

それでも、それ以降、食事の時は「何か話さなければ怒られる」

と思い、必死で話し続けたそうです。

一方兄はほとんど話さなくても母親から何も言われることがなく、たまにぽろっと独り言のように兄がつぶやくと

「お兄ちゃんはあまり話さないけれど、話す時は必ず面白いことを言ってくれるのね」

とベタ褒めだったそうです。


Nさんは、自分はどんなに頑張っても母に認めてもらえない、それどころか、いつ捨てられてもおかしくない人間だ、と思うようになったそうです。


その為、親戚からお菓子をもらった時などに、後で食べる分のお菓子を取っておくときは、いつも、お菓子の袋に

「食べたら殺す!」

と書いておいたそうです。

それくらいのことを書かないと、自分の主張は通らないのだという危機感をNさんは常に抱いていたのです。

でも、その菓子袋を見た母親はいつも、

「あんたは何でこんな風に人を脅すような書き方をするの!殺すなんて言葉、書くんじゃありません!」

Nさんを怒鳴り散らしたそうです。

「殺す」という言葉だけに着目した母親。

「殺す」という言葉を使わざるを得なかったNさんの気持ちを想像しようとは全く思わなかったのです。


カウンセリングの時、「何で『殺す』と書かざるを得なかったのか、お母さんに想像してほしかったね」とNさんに伝えると、頷きながらうっすらと涙を浮かべていました。

 

他者の思いを想像するのは難しいことです。

想像しすぎて、本当に病んでしまう人もいます。

でも、想像が足りなさ過ぎても、人を傷つけてしまうことがあります。

 

相手の気持ちを想像する時は、その前に「自分」を大事にできることが大事な条件なのだと思います。

そして、親が子どもの気持ちを想像する場合には、自分の思いは一旦脇において、まずは子どもの言葉に込められた思いを想像することが大切なのだと思います。

 

自分も大事。

相手も大事。

親は、自分の気持ちよりも子どもの気持ちの理解が大事。

 

皆の中でそういう考え方が当たり前になればいいのに・・・

と思いつつ日々人と関わっていますが、自分の子どもに対してはついつい自分の気持ちを先に口にしているような気が・・・ガーン


日々修行です昇天