藤原俊成 またや見む | わたる風よりにほふマルボロ

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摂政太政大臣家に、五首歌よみ侍りけるに

 

またや見む交野(かたの)のみ野のさくらがり花の雪散る春のあけぼの

 

藤原俊成

新古今和歌集春下114

 


 
【現代語訳】

 

再び見ることができるだろうか、

この景色を。

交野の禁野に桜を求めて歩き回ると、

花の雪の散る春の曙に巡り合った。

交野というぐらいだ、

老い先短い私には

(かた)いことだろう、

この景色とのまたの年の再会は。


(訳:梶間和歌)
 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

今狩する交野の渚の家、その院の桜ことにおもしろし云々。

伊勢物語 八十二段「渚の院」

 

またや見む:また見るのだろうか、

 また見ることになるのだろうか。

 

交野河内の国交野郡内の台地。

 平安時代以降、皇室の狩猟地で、

 桜の名所として知られる。

 「難し」を掛ける。

 

み野:御野。

 標野(しめの)、禁野(きんや)のこと。

 上代、皇室や貴人が領有した土地で、

 狩場などに用いられた。

 

さくらがり:桜の花を訪ねて

 山野を歩き回ること。

 狩猟のなされた「交野のみ野」に

 「さくらがり」をすると転じた表現。

 例えば鷹狩りは冬にするので、

 「交野のみ野に

 鷹狩りならぬ桜狩りをすると、

 雪ならぬ花の雪が散る」

 という見立てを補強する。

 

花の雪散る:落花を雪に見立てた表現

 

 

 

建久六年(1195年)二月、

九条良経邸での歌会にて。

 

俊成八十二歳、最晩年

……と言いつつ、

彼は九十一歳まで生きるわけですが。

 

 

とはいえ、それは結果論であり、

生きている当人からすると

当時の平均寿命をとうに越えた身、

 

題詠によせて

「またの年に桜が見られるかどうか」

という心を詠むことは

あったかもしれません。

 

 

題詠は題詠ですので、

 

「晩年の俊成が

 交野に行って詠んだのだなあ」

と読むと間違いです。

 

 

元は文治六年(1190年)

「女御入内御屏風和歌」として

野辺に鷹狩したる所
又もなほ人に見せばや御狩する交野の原の雪の朝を

と詠んだ歌が

俊成の家集『長秋詠藻』に

入っています。

 

これを、

五年後の九条良経邸での歌会に

改作して出したということのよう。

 

 

「女御入内御屏風和歌」です。

「野辺に鷹狩したる所」という詞書です。

 

屏風の絵に合わせて詠んだ歌、

どう読んでも題詠です。

 

 

 

後鳥羽院大好きでお馴染みの

丸谷才一は

 

みよし野の高嶺のさくら散りにけり嵐もしろき春のあけぼの

後鳥羽院 新古今和歌集春下133

俊成の「またや見む」が影響しただろう

と読んでいます。

 

 

これは建久六年(一一九五)の作だが、数年後『慈鎮和尚自歌合』にも番へられて当時すでにすこぶる評判が高かつたらしく、

建仁二年(一一〇二)ないしその翌年の千五百番歌合には影響のあといちじるしい二首を見出すことができる。

後鳥羽院の「嵐もしろき春のあけぼの」といふ言葉づかひは顕昭の「風さへしろし春の明ぼの」とよく似てゐるけれども、

おそらく上皇はぢかに俊成から影響を受けたのではなからうか。

「嵐もしろき春のあけぼの」が「花の雪ちる春の明ぼの」をただちに連想させることは言ふまでもないが、

「みよしの」(みは美称)は「みの」(みは美称)にすこぶる近いし、「高ね」は何となく「かたの」の字謎(アナグラム)めいてゐる。

しかし最も重要なのはいづれものの音を頻繁に用ゐ、たえずそれで調子を取りながら春の暁紅を歌ひあげて、

音楽が色彩であり色彩が音楽であるやうな効果をかもし出してゐることだらう。

まづそのなかの「嵐」のあの音が第五句の「あけぼの」のあと響きあふし、次におだやかな「花の雪ちる」をたけだけしい「嵐もしろき」に改めることによつて、

まつたく新しい不吉な美を突きつけることに成功しているのである。

 

引用が過ぎましたかしら。

 

 

教え子にまず衝撃を与え、

模倣され、

そののち模倣を越えて……

「踏まえて乗り越える」ということを

なされた俊成。

 

師匠冥利に尽きる、と

あの世で後鳥羽院「嵐もしろき」を

見つめていたのではないでしょうか。

 

 

またや見む交野のみ野のさくらがり花の雪散る春のあけぼの

 

 

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