藤原定家 夕ぐれは | わたる風よりにほふマルボロ

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守覚法親王五十首歌よませ侍りける時

 

夕ぐれはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ

 

藤原定家

新古今和歌集夏247

 




【口語訳】


夕暮れごとに風が吹き、

橘の香が匂い立つ。

いったいどの雲の名残として……

亡くなった誰を焼いた煙の雲の

名残として、

昔の名残を偲ばせる花橘に

風が吹いているのだろう。

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

さ月まつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする
詠み人知らず 古今和歌集夏139


みし人のけぶりを雲とながむれば夕の空もむつまじきかな

『源氏物語』「夕顔」巻 光源氏


雨となりしぐるる空のうき雲をいづれのかたとわきてながめん

『源氏物語』「葵」巻 頭中将

 

五月雨の空なつかしく匂ふかな花橘に風や吹くらむ

相模 後拾遺和歌集夏214

 

雲のなごり:遺体を焼いた煙が

 雲となった名残

 

花たちばな:初夏の花。

 昔の恋人や昔なじみの人を

 連想させる。

 

いづれの……風の吹くらむ:

 「らむ」を疑問詞とともに

 用いることで、

 「どの……が原因で

 風が吹くのだろうか」と

 原因の推量を表す。

 

 

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確かに、考えてみると

橘をはじめとした

何かしらの香りというのは

真昼間より夕暮れどきのほうが

強く立ち込めるイメージでしょう。

 

香りの濃さ薄さ以前に、

香りを感じる人間の側が

昼間より夕方に

もの思いに耽りやすい、

ということもあるでしょうね。

 

 

そのもの思いしやすい夕方の空の

雲を、そして橘の香を

死者の名残と結びつけた定家。

 

橘はともかく雲のほうは

『源氏物語』などで、

死者と結びつけて詠まれた

先例があります。

 

 

「雲の名残」でなく

ただ夕方に橘の香を嗅ぐだけなら

恋の歌によくある設定ですが。

 

その恋人、ないし親しかった人を

故人と設定し

しかもどの故人か特定しない

詠み方ということで、

 

ああ、定家の余情だなあ、と。

 

 

 

 

夕ぐれはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ

 

 

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