人ごゝろ 「心の花」2017年4月号掲載作品 | わたる風よりにほふマルボロ

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美しい和歌に触れていただきたく。

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「心の花」2017年4月掲載分(1月提出分)詠草

 

梶間和歌


 

人ごゝろ時にひとしと知り乍(なが)ら懸けてとむかし頼みける哉

 

チェック我れを恃(たの)み君頼みけるをりをりのいのちも分かぬこゝろおごりよ

 

チェックいのちとはおのれに依(よ)らずあらしむる風にまかする春の夜の花

 

我が身には余るめぐりもつたなさもなべて消えゆくうたかたの夢

 

憎しとは思ひみもせず弱きひと君を去るこそ悔しかりけれ

 

チェック春風もこゝろの海も凪ぐなへにをさなき君をおもふ許(ばかり)

 

チェック我れに又おのれに依りて生けるめりこゝろ恃めと届けかしこゑ

 

あはれなりいのちを知らで明日よりは我れにも去られあらん屍



チェックのあるものが掲載されました)
 
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【本歌、参考歌、語釈】

 

 

人ごゝろ時にひとしと知り乍ら懸けてとむかし頼みける哉

 めにちかくうつればかはる世の中を行すゑとほく頼みけるかな

 (『源氏物語』「若菜上」巻 紫上)

 

 懸けてとむかし頼みける哉:

  まさかそんなことはあるまいと

  昔あなたを信じてしまったものよ。

 

 

我れを恃み君頼みけるをりをりのいのちも分かぬこゝろおごりよ

 我れを恃み君頼みけるをりをり:

  自分を支えとし、

  あなたを信じ頼みきっていた折々

 

 

憎しとは思ひみもせず弱きひと君を去るこそ悔しかりけれ

 君を去るこそ悔しかりけれ:

  あなたを置いて死ぬことこそ

  心残りではあれど

 

 

春風もこゝろの海も凪ぐなへにをさなき君をおもふ許ぞ

 凪ぐなへに:穏やかになるに連れて

 

 

我れに又おのれに依りて生けるめりこゝろ恃めと届けかしこゑ

 小よろぎの磯たちならし磯菜つむめざしぬらすな沖にをれ浪

 (詠み人知らず 古今和歌集大歌所歌1094)

 

 生けるめり:生きているようだ

 

 届けかしこゑ:届け、声よ

 

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『源氏物語』「御法」を主に。

紫上を一人称で。

 

 

彼女は、前半生は

己の才覚を以て地位を築いた人だ

と思うのです。

誰も頼れませんからね。

光源氏のなくてはならぬ人という立場を

血筋ではなく約束事ではなく

自身の働きを持って掴んだ人です。

 

そうして築いた、不動と思われた地位は

皇女女三宮の降嫁によりぶち壊される。

しょせん自分の保っていた地位は

正式な妻ではなく“正妻格”に過ぎなかった、

この空席に誰かが入ってくれば

自分は脇に退かねばならない存在であった、

と思い知らされたと思う。

 

ですから絶望もしたでしょうし

それゆえ病に倒れるのですけれども、

 

彼女の亡くなる前数ヶ月を描いた

「御法」巻は

実に筆が穏やかです。

彼女は、悟ったのだな、と思うのです。

 

何かをしてきた自分、何かのできる自分、

そうした条件を拠り所に生きることをやめ、

自分がただここに生きているという

誰にも脅かされることのない存在、事実を

生きる拠り所としたのだろうと。

 

その穏やかな悟りの境地から

年は上でも幼すぎる光源氏を見ると、

心残りもあったでしょうが、

恨みつらみはもう残っていなかったのだ

と思う。

 

「御法」巻から、私はそのように感じます。

 

 

人生で築いてきた(と思えた)ものが

ある日突然崩れ去っても、

もちろん崩れ去らなくても、

 

それらが私を生かしてきたわけではない。

私は生きている、だから生きている。

 

その穏やかな境地のまま

死んでいった彼女は、

願い続けた出家こそ叶わなかったものの、

心は出家し悟りを開いていたも同然ですし、

誰よりしあわせな女性だったのだろう

と感じます。

 

 

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