西園寺実兼 出でて後 | わたる風よりにほふマルボロ

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夏の歌の中に

 

出でて後まだ程もへぬ中空(なかぞら)に影しらみぬるみじか夜の月

 

西園寺実兼

玉葉和歌集夏385

 

 

 

【現代語訳】

 

その姿を見せてのち

まだたいして時間も経ていない

中空に

もう白んでしまった、短夜の月よ。

まったく夏の夜は短く、

月を愛でる間もない。

 

(訳:梶間和歌)

 
【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

程もへぬ中空:程も経ぬ中空、

 時間も経っていない中空。

 「ほど」は、ここでは時間、

 「中空」は空の中ほど。

 

影:(月の)光、姿

 

影しらみぬるみじか夜の月:

 姿の白んでしまった短夜の月。

 「ぬ(ぬる)」は完了の助動詞。

 

 

 

京極派の特徴については

折々話してきましたが、

 

時間の経過の表現の巧みさ

しばしば挙げられますね。

 

 

この歌、句切れがありません。

 

例えば三句切れにしたり、

句切れなしでも三句でゆるく

「出でぬれど」などとして

 

上の句で月の出た瞬間を描き

下の句で「なのに

あっという間に白んでしまった」

と描くようなことをすると、

 

前時代的、王朝和歌風の

平凡な歌に

なってしまったでしょうね。

 

 

「みじか夜の月」を修飾するために、

 

「出でて後まだ程もへぬ中空」

という場所を設定し、

かつ時間の設定もおこなう。

 

そして「影しらみぬる」で

「もう白んでしまった」ことを表す。

 

それらが句切れなしでなだらかに

「みじか夜の月」に係る。

 

 

うまいなあ。

 

うまいし、言葉の響きに

育ちの良さも表れていますね。

 

 

 

そうそう、この歌は色彩表現にも

京極派の特徴が出ていますね。

 

勅撰集の色名表現は、古来
「白菊」「青柳」といった

名詞の頭に接頭辞としてつく形を

取っていました。

「白し」「白く」と

形容詞の形を取ったり
「白む」と動詞の形を取ったり

することは珍しかったそうです。

 

 

従来の約束事を

知っているからこそ、

 

それを破ったものに出合った時、

その試みの意味を

正しく受け取ることができる。

 

 

2017年に私、この

「出でて後」の訳をしていますが、

 

解説はゼロでした。

訳と語釈だけ。

 

この3年で私も成長した

ということでしょう。笑

 

 

まだまだ

“十分正しく受け取れている”とは

言えませんが、というか

死ぬまで言えないと思いますが、

 

だからといって成長の努力を怠る

言い訳にはなりませんからね。

 

 

引き続き精進します。

 

ぜひ、あなたもともに。

 

 

出でて後まだ程もへぬ中空に影しらみぬるみじか夜の月

 

 

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