建礼門院右京大夫 雲のうへに | わたる風よりにほふマルボロ

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美しい和歌に触れていただきたく。



高倉の院御位のころ、承安四年などいひしとしにや、正月一日、中宮の御方へ、内のうへわたらせたまへりし御引直衣(おほんひきなほし)の御すがた、宮の御 もののぐめしたりし御さまなどの、いつと申しながら、めもあやにみえさせたまひしを、ものゝとほりよりみまゐらせて、こゝろにおもひしこと、

雲のうへにかゝる月日のひかりみる身のちぎりさへうれしとぞおもふ

建礼門院右京大夫
建礼門院右京大夫集2
 
 
【口語訳】

高倉天皇御在位のころ、承安四年あたりの年だったか、
正月一日、中宮の御所へ、
天皇がお越しになられた際の御引直衣のお姿、
そして衣装をお召しになる中宮のご様子などの、
いつそうでない時があったかとは思いながら、
それでも特別に
眩いほどにご立派でお美しくお見えだった御ありさまを、
通りより拝見いたして、心のなかにこのように思いました。

雲の上、天上に懸かる、
斯(か)かる…このような月と太陽のような
輝かしい天皇、皇后両陛下を
雲の上、宮中にて拝見した。
そのような幸運に預かったことで
つまらぬ身の上である私の運命さえ
なんともうれしく思われることだ。
 
 
雲のうへ:月日の巡る天上と、天皇皇后の住まう宮中の、両義を掛ける

かゝる:天上に「懸かる」月日と、「斯かる」(このような)月日とを掛ける

ちぎり:宿縁、運命
 
 
高倉天皇中宮平徳子に仕えて間もないころの
右京大夫の初々しく若々しい歌です。