藤原定家 かきやりし | わたる風よりにほふマルボロ

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題しらず

かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞたつ

藤原定家
新古今和歌集恋五、1389

 




【口語訳】

独り横になる夜ごとに
あなたの面影がよみがえる。
私の掻きやったその黒髪の

ひと筋ひと筋が

ありありと感じられるほどに、

鮮やかに……、横になるごとに

その面影がよみがえるのだ。

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき
和泉式部 後拾遺和歌集恋三、755


かき撫でて生(おほ)しし髪の筋異(こと)になりはてぬるを見るぞ悲しき

和泉式部 和泉式部集499

 

 

かきやりしその黒髪:

 私の掻きやったその黒髪。

 「き(し)」は「確かにそうだった」

 というニュアンスを持つ

 過去の助動詞で、

 多く自分自身の行為に用いる。

 

すぢごとに:筋の一本一本ごとに

 

うち臥すほど:横になる時。

 「うち臥す」は横になる意だが、

 接頭辞「うち」により

 ふっと倒れ込むような

 勢いの強さが加わる。

 

 

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黒髪を掻きやってくれた人が

恋しい
と詠んだ和泉式部に対して
その恋人役となって詠み返した、
時代を超えた相聞歌。
 

 

「かきやりし」

「黒髪」

「うち臥す」は本歌「黒髪の」より、

 

「すぢ」も参考歌「かき撫でて」より

引かれた語。

 

 

嫌らしい目で見れば

「和泉式部の名歌の言葉を

 パクって組み立てただけ」とも

見えるかもしれませんが、

 

パクりと

成功した本歌取りの違いの

ひとつには

 

本歌取りする側の圧倒的な技術

があるでしょう。

 

 

試しに、「こんなのはパクリだ」と

言ってのけるその人に

「ではこの4語を使って

 和泉式部より定家より美しい歌を

 詠んでみせて」

と言ってみると、答えはわかります。

 

 

定家のこれは、とんでもないですよ。

恋歌の名手

と呼ばれるゆえんですね

 

作中主体を女性と設定した

女歌のほうに名歌が多いですが、

男歌にも

こうしたハッとするような恋歌を

定家は残しています。

 


初学のころは

気づかなかったのですが、
定家のこの歌は
「恋五」部に入集。


つまりここで想定されている恋は
すでに終わっている可能性が高い。


かつて掻きやった黒髪の感触に、

二度と触れることのない

過去の恋人を夜ごと想う男。

 

 

自分の元彼として想像したら

きっとゾッとするだけですが、

そういう下世話なことはやめましょう。

 

例えば、

夕顔を亡くしたあとの光源氏だとか。

朧月夜と別れたあとの

須磨隠棲時の光源氏だとか。

男女関係は持てなかったものの

髪を掻きやることだけはした大君を

亡くしたあとの薫大将だとか。

 

そんな貴公子の

しっとり枕を濡らすさまを

想像すればよろしいかと。

 

 

かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞたつ

 

 

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