藤原定家 春の夜の | わたる風よりにほふマルボロ

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守覚法親王、五十首歌よませ侍りけるに

春の夜の夢のうき橋とだえして峯にわかるるよこぐもの空

藤原定家
新古今和歌集春上38
 
 
【口語訳】

春の夜の夢…浮き橋のように頼りなくはかない夢が
途絶えてしまったところで
夢うつつのまま空を見上げると、
横にたなびく雲が峰に分かれて漂ってゆくのだった。

(訳:梶間和歌)
 
 
春の夜の夢:はかないもののたとえ

夢のうき橋:源氏物語五十四帖の最後の巻名であり、
 はかない恋やあっけなく終わりを迎えた恋の物語を
 読者に連想させるが、
 定家以前に和歌に用いられた例はない。

峯にわかるるよこぐも:雲が峰から離れる、の意と、
 雲が峰に当たってふたつに分かれる、の意との

 解釈がある。

よこぐも:明け方の雲として歌に詠まれることが多く、
 後朝(きぬぎぬ)の別れ
 (朝になる前に

  男が女のもとを去らねばならない定め)
 を読者に連想させる。
 
 
春の夜の夢、うき橋、とだえ、わかるる、
(後朝(きぬぎぬ)を思わせる)よこぐもの空、
と恋をほのめかす語が列ねられたことは

偶然ではない
とは多くの指摘があります。

余情のある、解説を要しない、見事な歌だと。
 
 
と申しますか、
この歌の口語訳は、無理ですよ。

私は此処に訳で太刀打ちする情熱はありません。
早々に負けを認め、
この歌の見事さをいかに己の歌に取り込むか
の試行錯誤のほうに情熱を燃やします。

 

そもそも訳がもとの芸術作品に勝ることなど

あり得ないのですからね。

訳など必要悪に過ぎません。
 
 
霞立つすゑのまつやまほのぼのと波にはなるるよこぐもの空
新古今和歌集春上37 藤原家隆

の5年ほど後の定家の作だそう。


家隆のことをライバル視していた

と言われる定家も、
家隆の歌の良さは

積極的に取り入れていたそうです。