塩の働き・・・江戸時代の庶民の本草学の本「本朝食鑑」より | 橋本三奈子のSalt Revolution(わじまの塩に魅せられて)

塩の働き・・・江戸時代の庶民の本草学の本「本朝食鑑」より

10日から16日までの二子玉川ライズ「東急フードショー」地下1階の「Ocatte」での能登半島ランチイベントも、無事、終了しました。お越しくださった方々、応援してくださった方々、ありがとうございました。

さて、一昨日、とご紹介している江戸時代の庶民の食べ物を対象にした本草学の本「本朝食鑑」(平凡社・東洋文庫)。

本朝食鑑


この中の「食塩」の項をご紹介しています。食塩は「水の部」の海水の次に紹介されています。

今日は、本草学らしく、薬としての使われ方について書かれた部分をご紹介します。

ちょっと言葉が東洋医学的で、難しいかもしれませんが、(※)にわかる範囲で私の注記をつけていきます。

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およそ塩は、肉食の気を吸収して、温・熱(薬性の六味のうち)の性を涼(薬性の六味の一)にし、味を変えさせぬものである。

たとえば、米豆麹(こうじ)を調えて味噌や醤油を作り、梅を和して庖厨(※調理場)の味を助け、魚鳥・瓜菰(※瓜は野菜のウリ。菰はイネ科の多年草)を収蔵して幾年も腐敗させない。

荒飢(ききんで飢えること)・避穀(穀物を断つこと)・枕癇(年久しく癒えぬ病)の人であっても、これを嘗めると筋力をます。

してみると、人間の一日たりとも遺失することのできぬものである。

気味: 

微塩鹹い(ややしおからい)。寒(薬性の六味の一)。無毒。

主治: 

毒を解し、血を涼(きよらか)にし、燥(※乾燥)を潤し、痛を定め、痒(かゆ)みを止め、吐き気を止め、瘍疔(※腫瘍)を治し、熱腫を散らし、疥癬(※ヒゼンダニによっておこる皮膚感染症)を癒す。

発明:

食塩の効用は「本草綱目」に詳しく論じてあり、贅説する必要はなかろう。

眼を明らかにし歯を固くする効用については、我が国でも、常に試みられている。

塩は潤下(ものを潤し、低い方に下っていくこと)の性を持っており、鹹は血に入るもので、これによって眼中の血熱を引き、潤下するのである。

歯は骨の余りであり、腎が骨をつかさどり、鹹は腎に帰して骨に入る。これによって歯牙をよく固くするのである。

わたしはつねに上気にして眼を患い、気が上方に鬱するとまぶたが突き出して、めやにが粘り固まっていた。

ある士人の諭していうには、「昔、八十歳の翁が夜でも細字を見ることができ、命の終わるまでそうであった。

翁がみずからいうには、

『私は五十歳の頃から毎朝、塩湯で眼を洗っていたが、特別なことをしたわけではない。洗う方法は、温湯一升に白塩大さじ1杯を入れ、茶せんで数十回まぜかえし、微温の湯になってから口をすすぐこと四・五へん、眼を洗うこと三百六十回、毎朝これを日課として怠らなかった』

という」と。

わたしはこれを聞いて、そのように二年間実行すると、目はやや清くなり、歯も損じないでいる。

それで子孫にこの法を末永く伝えようとおもうのである。

附方:

霍乱(※激しい嘔吐、下痢、腹痛)・嘔吐・・・熱湯塩一さじをしきりに飲んでいると癒える(※治る)。

感寒・腹痛。および冷えて腹痛・虫痛をおこした時は、熱塩湯一さじに胡椒(こしょう)三粒、山椒(さんしょう)五個を和し、熱いうちに飲めば験(※効き目)がある。

疥癬のひどくかゆいこと。陰疹(※湿疹)、血風、一切の瘡腫のかゆみには、生の白塩ひとつまみをかゆいところに塗り、よくこするとおさまる。

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ちょっと漢字がむずかしかったですが、雰囲気は伝わったでしょうか?

江戸時代の塩は、精製が悪い分、ミネラル分が残っていましたから、いろいろな症状の薬として、使われていたんですね。

かゆみを抑えるというあたりや、目や歯にもよいというあたりは、マグネシウムの働きですね。

現代は、西洋医学的な薬品が薬とされ、普段から食べるものの薬効をうたって宣伝することができない決まりになっています。そのために、実は、当たり前で大切なことを見逃してしまっているのではないかと思います。

この本は、全4巻で、庶民的な食べ物がいろいろ掲載されていて、そのどれにも、効用書きが記載されています。

たとえば、「飯」。

こちらの主治には、「五臓を補い気血(生気と血液)をまし、百病を治し、人間に一日もなくてはならぬものである」と書かれています。

「酒」にだって、尿の出をよくし、大腸を滑らかにし、魚や草の毒を消すという薬効が書かれていますよ。

体は食べ物が作ること、病気を作るのも治すのも食べ物だってこと、見直す時代になっていると思います。