肉や魚の水分を吸収し、うま味を濃縮するピチットの実験
このブログによく登場している弊社顧問の瀬川昌威は「ミスターピチット」と言われていた方なのですが、昭和電工時代に、脱水シート「ピチット」の事業部長をなさっていた方なのです。
「ピチット」の一番はじめは、オムツなどに使われている当時の新素材・高分子吸収剤をパラフィンで包んでいたものだったのだそうです。
若狭の干物屋さんが、「これで包むと、干すより美味しくなる」と使ってくれている声を頼りに、石油プラスチック素材産業・大手の昭和電工が、家庭向けの消費商品に本格参入。
とはいえ、なかなか売れなかったころ、瀬川は、フランスから帰ってきて四谷に「オテル・ド・ミクニ」を出して、話題になっていた三國清三シェフのところにピチットシートを持っていき、説明をして、使ってみてくださいと頼んで、2週間後に再び訪ねたそうです。
三國清三シェフは、「条件がある。このシートは俺だけに売ってくれ」とおっしゃったのだそうです。瀬川の背筋に鳥肌がたったそうです。
「ラ・ロシェル」の坂井宏行シェフからは、「テレビの『「料理の鉄人』で魚料理で負け知らずだったのは、ピチットのおかげです」という感謝の手紙もいただいています。
食品を扱うからということで、高分子吸収剤を水飴に変え、
破けやすいパラフィンを、食品包装材料として認められているポリビニルフィルムに変え、
乾かして繰り返し使えたものを、衛生や手間などを考えて、使い捨てに変え、
今の形になっています。
この脱水シート、何がすごいかというと、水と臭みだけを吸収し、うま味成分などは吸収しないので、魚や肉のうま味が凝縮する、ということなのです。
料理人さんなら、今日の魚の水分や臭みを確認して、塩加減も味付けも変えないといけないけれど、ピチットを使うと、塩を使わずに、水分も臭みも取ってくれるので、素材の状態がいつも同じになり、その後のレシピが安定するのです。
だから、料理の鉄人のシェフ様達は、こぞって複数店舗経営も可能になった、なんていう話も・・・。
このピチットシートがうま味成分を残して水だけを吸収する、ということをわかりやすい実験でお見せします。
市販の牛乳とピチットを用意します。
牛乳の中に、ピチットシートを入れてしまいます。
すっぽりと牛乳の中にピチットシート浸けておくこと12時間。さて、牛乳の中からピチットシートを取り出します。
ピチットシートについた外側の牛乳をペーパータオルで拭き取ります。すると・・・。
あ~ら不思議。ピチットの中には、透明な液体が入っています。少し黄色がかっていますが、乳清の色とでもいうものでしょうか。
残った牛乳は、飲んでみると、濃厚になっています。
ピチットシートが、牛乳の中のたんぱく質の分子は吸収せず、水分だけを吸収した、というわけです。
生クリームに水を溶かした牛乳じゃないですよ。成分無調整の生乳100%です。分子レベルで水分だけ吸収してしまったのですね。すごいでしょう?
水っぽい魚や肉は、大味と感じますが、水っぽさがなくなれば、たんぱく質のうま味が凝集されるので、ピチットに包むと、おいしくなるというわけです。
旬の魚はもともと水気も少ないので、旬をはずれた魚には、もっとも効力を発揮します。
養殖のフグが天然物のようになり、ブロイラーの鶏肉が地鶏になる、というのは(今だと偽装になってしまいますが)、よく言われることです。
冷凍の魚を解凍するときに包んでおくと、ドリップが出て、それとともに旨味も流れでてしまいますが、ピチットで包んでおくと、旨味は閉じ込められるので、冷凍された魚や肉を解凍するときに便利です。
新鮮なうちに処理されて冷凍された魚なら、解凍して、お刺身にすることも可能です。
ピチットシート、一度、お試しになってみてください。