1999/5/27 (Thu)

仕事が終わって、私は即アイツがいるあの空間に急いだ。あの空間は広くて、白くて、皆がどこか虚ろで。本当はもっと狭い場所じゃないのか?本当は日差しが差し込んでいないんじゃないか?
全てがまやかしなんじゃないかと疑ってしまう。

点滴を打ちながら車椅子に乗って待っていたアイツのところに駆け寄る。

「遅いよー。」

『だって、バスがぜんぜん来ないんだもん。』

急げば6時30分頃につく予定だったはずが、そこに辿りついた頃には7時をまわっていた。面会時間は7時まで。
談話室なら面会時間を過ぎても話していてかまわないということだが、消灯は9時。残された時間は1時間程度。

1時間なんて何を話せばいいんだろう?何から話せばいいんだろう?
私はただただ笑顔でアイツを見つめる。
アイツも負けずに笑顔で私を見つめる。

買ってきたケーキを美味そうに食べるアイツの横顔は前とちっとも変わっていない。ただ、視線を下げていくと足が固定され、椅子に車がついている。

「若い子は順応性があるねーって言われたよ。」

車椅子を自在に操り自分で寝起きするのを見て医者は感心したらしい。そうだよ、そうやって早く今の体に慣れて早く退院してほしい。そう願った。

「昨日友達が見舞いに来たよ。車でひいたヤツはぜんぜん来ないけどね。」

青信号で直進し、交差点の中央付近で黄色に変わったためそのままスピードを出して直進したアイツのバイクに向かってハンドルをきったソイツ。

確かに来づらいのかもしれない。でも、そういう問題じゃないだろ?そんなこと言ってる状況でもないだろ?18歳の子供じゃあるまいし。いい年して自分がしたことの責任を取れないなんて恥ずかしくないのか?犬だって糞をしたあとは砂をかけるぞ。

こういう時、きまってよくしゃべるのは当事者の知り合いのおせっかいなオヤジだ。俺は保険の外交員をしてただとか言いながら「俺に任せとけ。」なんて言う。当事者は何も言えずに下を向いている。

彼等の間には

オヤジ→世話をすることにより自己満足をえる。
当時者→犯した罪のことで頭がいっぱいなので他のことが考えられず黙ってまかした方が楽。

という相関図ができているのだろう。

見舞いに来るとしたらきっと、オヤジと一緒に来るに違いない。もしくは何も言わずに病室の前に花を置くような恋する乙女のような真似でもするのだろう。

大人なら、自分を3歩離れた所から見た時に恥ずかしくない行動をして欲しい。

アイツの足が元通りになるまであと56日(予定)。