大事な人が大事な時に事故に遭った、あの時。
1999/5/22(Sat)
河口湖の近くにあるファミレスで働いている兄に久しぶりに会いに行こうと、父と母と3人で車で向かった。久しぶりに会った兄はみごとに痩せていて、妹の私がこんなことを言うのも変だが、一時期何もせずに家で就職活動をしてた頃とは比べものにならない程いい男になっていた。それなのに、まだ
「彼女できるかな?」
と心配している。私は元気づける意味と冗談半分で言ってやった。
「黙っててもできるよ。バイトの高校生でも狙えば?」
母と父のウィークポイントばかり似てしまった私に比べ、兄はいい所ばかり似ている。だから、私と兄はまったく似ていない。似てるとすれば、B型人間特有のいい加減な所くらいだろう。いい加減な兄はいい加減な私に悪態を吐く。
「おまえ相変わらずだな。」
いい加減な私はいい加減な兄に威張る。
「でも短大出の私の方が高給取りだもんね。」
最近の彼の口癖はこれだ。
「俺の職場は1部上場企業なんだぞ。」
長い間ファミレスでバイトしていてベテランの域に達していた私と、社員として働き初めてまもない兄は、よくお互いの仕事のこなし方について言い争いになる。
「全部のポジションできたし、1人で2ポジションこなしてたよ。」
と言う私に、
「うちの店はお前が働いてた所と違って一日に1400人来るんだよ!」
と張り合ってくる。そんな会話も心地よいのは、たまにしか会えない今の状況だからだろう。こうして議論してる間に1日が流れるように過ぎて、私と父と母の3人は河口湖の兄の部屋を後にした。
99/5/23(Sun)
その日は富士山が不気味なくらいに綺麗で、私はボーっとそれを見ながら家から持ってきたCDを聴きながら時折口ずさんでいた。
そんな風に河口湖に居る間、模試の勉強に奮闘している大事な人に携帯で他愛もないメッセージを送っていた。そして、大事な人から他愛もないメッセージを送られていた。
当初はそのまま自分の部屋まで送ってもらおうと思ってたのだが、模試が早く終わるというので、途中で降ろしてもらって待ち合わせすることにした。電話が来たときはまだ自分がどこら辺に居るかわからず、時間がかかるかもしれないと伝えた。
しばらくして待ち合わせの場所に1本で行ける駅に着いたのでそれを伝えると、どうやらもっと時間がかかると思ったらしく調子が悪かったバイクのブレーキ部分を直してもらう事にしたという。
「どっか近くの店とかで時間つぶしてるよ。いろいろ見たい本とか服とかあるし。」
そう言って、私はそのまま待ち合わせた駅に向かった。
私はフラフラと見ながら、大事な人が言った言葉を思い出した。
「なんかいい匂いがする。」
アイツはいつも香水の匂いを毛嫌いしていたので、出会った頃に比べて香水などをつけなくなっていた私だが、化粧品売り場でふと目に入った香水をその日は試しにつけてきた後だったからだろう。
「香水いつも嫌だって言ってたじゃん。」
「キスする時少し苦いだけで、つけすぎなければいいと思うよ。」
私はその時の香水を探していた。同じ所から出していて同じ所においてある香水が2種類あって、”I love you”と書いてあるたてに細長いハート型の瓶のものと、”VICE VERSA”と書いてあるハート型の蓋のものだった。前者の方は30ml3500円,50ml4800円と安めで、後者の方は100ml8800円だった。
給料日前だったのでその時の匂いのものが前者のものであるのを願って匂いを確かめてみると、何回確かめても狙っていた獲物は後者だった。それも、後者は1999年限定発売らしい。どうせつけることにするなら、パブロフの犬のように私の匂いを植えつけてやろうと思っていたのだが、限定だとなくなったら駄目だ。でも、そんなにすぐはなくならないだろうと勝手な予測を立て、私はカードでそれを購入した。
晴れて自分の物になった(厳密に言えばカードで買ったのでまだ先だけど)その香水をつけた私は意気揚揚とスキップでもしそうな勢いで大事な人が迎えに来てくれるのを待っていた。
「今修理終わったから、これから家に帰ってそっちに向かうよ。」
と私に言って、それから15分もたたないくらいだろうか、また私のポケットは震えた。
「交差点で事故ったからそっちに行けないよ。今から病院に行く所。」
そう言っているアイツの後ろからは聞き覚えのあるけたたましいサイレンが鳴っていた。いつもより少し元気は無いが、普通の口調でしゃべっているアイツからは、足が動かない状態である事が感じられなかった。病院の場所を聞いた私はそこへ向かった。
…続く。
1999/5/22(Sat)
河口湖の近くにあるファミレスで働いている兄に久しぶりに会いに行こうと、父と母と3人で車で向かった。久しぶりに会った兄はみごとに痩せていて、妹の私がこんなことを言うのも変だが、一時期何もせずに家で就職活動をしてた頃とは比べものにならない程いい男になっていた。それなのに、まだ
「彼女できるかな?」
と心配している。私は元気づける意味と冗談半分で言ってやった。
「黙っててもできるよ。バイトの高校生でも狙えば?」
母と父のウィークポイントばかり似てしまった私に比べ、兄はいい所ばかり似ている。だから、私と兄はまったく似ていない。似てるとすれば、B型人間特有のいい加減な所くらいだろう。いい加減な兄はいい加減な私に悪態を吐く。
「おまえ相変わらずだな。」
いい加減な私はいい加減な兄に威張る。
「でも短大出の私の方が高給取りだもんね。」
最近の彼の口癖はこれだ。
「俺の職場は1部上場企業なんだぞ。」
長い間ファミレスでバイトしていてベテランの域に達していた私と、社員として働き初めてまもない兄は、よくお互いの仕事のこなし方について言い争いになる。
「全部のポジションできたし、1人で2ポジションこなしてたよ。」
と言う私に、
「うちの店はお前が働いてた所と違って一日に1400人来るんだよ!」
と張り合ってくる。そんな会話も心地よいのは、たまにしか会えない今の状況だからだろう。こうして議論してる間に1日が流れるように過ぎて、私と父と母の3人は河口湖の兄の部屋を後にした。
99/5/23(Sun)
その日は富士山が不気味なくらいに綺麗で、私はボーっとそれを見ながら家から持ってきたCDを聴きながら時折口ずさんでいた。
そんな風に河口湖に居る間、模試の勉強に奮闘している大事な人に携帯で他愛もないメッセージを送っていた。そして、大事な人から他愛もないメッセージを送られていた。
当初はそのまま自分の部屋まで送ってもらおうと思ってたのだが、模試が早く終わるというので、途中で降ろしてもらって待ち合わせすることにした。電話が来たときはまだ自分がどこら辺に居るかわからず、時間がかかるかもしれないと伝えた。
しばらくして待ち合わせの場所に1本で行ける駅に着いたのでそれを伝えると、どうやらもっと時間がかかると思ったらしく調子が悪かったバイクのブレーキ部分を直してもらう事にしたという。
「どっか近くの店とかで時間つぶしてるよ。いろいろ見たい本とか服とかあるし。」
そう言って、私はそのまま待ち合わせた駅に向かった。
私はフラフラと見ながら、大事な人が言った言葉を思い出した。
「なんかいい匂いがする。」
アイツはいつも香水の匂いを毛嫌いしていたので、出会った頃に比べて香水などをつけなくなっていた私だが、化粧品売り場でふと目に入った香水をその日は試しにつけてきた後だったからだろう。
「香水いつも嫌だって言ってたじゃん。」
「キスする時少し苦いだけで、つけすぎなければいいと思うよ。」
私はその時の香水を探していた。同じ所から出していて同じ所においてある香水が2種類あって、”I love you”と書いてあるたてに細長いハート型の瓶のものと、”VICE VERSA”と書いてあるハート型の蓋のものだった。前者の方は30ml3500円,50ml4800円と安めで、後者の方は100ml8800円だった。
給料日前だったのでその時の匂いのものが前者のものであるのを願って匂いを確かめてみると、何回確かめても狙っていた獲物は後者だった。それも、後者は1999年限定発売らしい。どうせつけることにするなら、パブロフの犬のように私の匂いを植えつけてやろうと思っていたのだが、限定だとなくなったら駄目だ。でも、そんなにすぐはなくならないだろうと勝手な予測を立て、私はカードでそれを購入した。
晴れて自分の物になった(厳密に言えばカードで買ったのでまだ先だけど)その香水をつけた私は意気揚揚とスキップでもしそうな勢いで大事な人が迎えに来てくれるのを待っていた。
「今修理終わったから、これから家に帰ってそっちに向かうよ。」
と私に言って、それから15分もたたないくらいだろうか、また私のポケットは震えた。
「交差点で事故ったからそっちに行けないよ。今から病院に行く所。」
そう言っているアイツの後ろからは聞き覚えのあるけたたましいサイレンが鳴っていた。いつもより少し元気は無いが、普通の口調でしゃべっているアイツからは、足が動かない状態である事が感じられなかった。病院の場所を聞いた私はそこへ向かった。
…続く。