"Angels & Demons"

2000年刊

 「ダ・ビンチ・コード」のダン・ブラウンです。このお話は、ダビンチのお話よりも前に主人公のラングドンがイタリアで経験した事件、ということになってるようです。まだダビンチの方を読んでいないことは連載物を読む順序としてはよかったかもしれません。ダビンチの方はペーパーバックが出るのを待っていたから読んでいないだけですが。

 作者の公式HPによりますと、Amherst College を卒業、Phillips Exeter Academy という学校で英語を教えている間に暗号解析などに興味を覚え、小説を書き始めた、とあります。彼の家庭環境は科学と宗教にあふれたところだった、それが彼のインスピレーションを掻きたてた、ともあります。読み始めたときはこの人の詳しいバックグラウンドは知らず、ただ「先生である」とは聞いていたので、どこかの大学教授なのか、とも思いました。素人考えでは、ハーバード大学の教授を主人公にするには、作者もそれなりに経験が必要なのでは……、と思ったのです。しかし、大学教授ではこういう奇想天外な話にはできないでしょう(^^;)。「反物質」の扱いにしても、物事をよく知っているからこそ慎重になってしまうだろう、と思うのです。

 物語は、ハーバード大学、Symbology の教授、ロバート・ラングドンがCERN(ヨーロッパの科学研究の中心的なところ)に半強制的な招待をされ、物理学者の殺人の謎を探ってほしいと頼まれるところから始まります。その物理学者の研究していた「反物質」が盗み出され、邪悪な団体の手に渡ったらしい。ラングドンはその物理学者の娘、これまた物理学者のビットリアとともにバチカンに渡り、そこにしかけられた反物質を探し出すことに。事件はバチカンの爆破予告、そしてコンクラーベに出席する司教たちの予告殺人に発展します。殺された物理学者の胸に刻まれていた暗号がキーとなり、護衛の兵隊たちとともに、1600年代のイタリアの史跡を訪ねまわる二人……。

 「ローラーコースター」小説といわれるように、そのままハリウッドの映画になりそうです。前半の謎解きの多い部分のころは確かにワクワクして読み続けられました。秘密結社の謎やエピソードについても、どこまでが史実でどこからが嘘っぱちなのか(^^;)と思いながらも、読ませてくれます。こういう虚虚実実のストーリーテリングがこの人の持ち味のひとつなのでしょうね。

 また、暗号解読に興味を持って、それを発展させたという作家には他にもニール・スティーブンソンが思い出せます。その「クリプトノミコン」という小説と比べると、ブラウンのこの小説の方が設定が無理がなく、縦横無尽に話を展開していて、うまいかな、と思いました。WWIIのような近過去では謎となっている部分も少ないです。1600年代のイタリアとなれば、どんなことが起きたのか記録を辿るのも大変だし、想像力を広げる余地があるわけです。

 ただ、後半になると、いかにもアメリカ第一主義というか、イタリアにひょっこりやってきたアメリカ人がそこまで自分勝手になんでも解決しようとするかよ、と思いました。「傲慢なアメリカ人」と言いますか……、あ、これは私のいつもの偏見でもあります(^^;)。ともかく、そうなるとトム・ハンクスの顔がちらついてきて興ざめでした。ダビンチの映画化で主役に決まったそうですからね。

 というわけで、それなりに面白いけど、ハリウッド映画大好きでないと食傷気味になりそうな物語です。