『せっかく堅気として生涯生きていくと決めた割には、なんか元気なかですね?』
宮尾会長は、冗談ぽく笑顔で話しかけているけど、この10畳あまりのワンルーム会社事務所を見れば、事業がうまくいっていないことは理解できるであろう。
自分を信じて、ヤクザ社会を飛び出したけど、何事もサッパリうまくいかず、呆然と宮尾会長の目の前に座っている自分が恥ずかしかった。
『まぁ、山中さん。何事も順風満帆なんてことは、なかですから、性根据えていかんですか。それとですね、事業があって御力添えは、あまりできんですけど、これで少しは事業資金のお役に立ててくれんですか?』
宮尾会長は、自らが持参してきた紙袋を無造作にテーブルの上に置いた。
恐る恐る、上から中身をチラミしてみると、1千万円のブロック何個かが無造作へ入ってた。
紙袋の半分くらいの札束だから、金額にして5000万円くらいは入っていることが想像できる。
涙が出るほど嬉しかった。
これだけの資金があれば、事業も軌道に乗せることが出来るであろう。。。
『すみません。会長。ご厚意に甘えることはできません。どんなに苦労しても必ず自力で這い上がってみます』
喉から手が出るほど、事業資金が欲しかった。
宮尾会長は他のヤクザと違い、資金を出すことで、今後俺が事業に成功したとしても、上前をカスメ取るようなセコイことなしないことはないであろう。
だが、ヤクザマネーを資金として事業を成功させても、『堅気』として生きる決断をしたことに矛盾が生じるのではないか?
そんなことをが、咄嗟に頭をよぎったと思ったら、意識もなくその場で深々と土下座をして、宮尾会長のありがたい厚意をお断りした言葉がでた。
顔を上げるのが怖かった。
宮尾会長と目を合わすことが、、、、
沈黙が続く。。。
何分くらいの間だったであろうか。。。
『山中さん。解りましたから。そんなところ座っていないで、こちら座ってください』
言われるがまま、椅子に座りなおそうと立ち上がりながら、宮尾会長の顔をチラ見すると、、、、
その場で、切り殺されそうな鷹のような目で、俺を見つめている。。
余計なこと言わないで、黙って厚意に甘えておけばよかったな?
何秒間前の決意から一転し、お断りしたことに猛省するのである。
『まぁ、いいでしょ?そんな固い決意があるならば。。。では、自力で頑張ってください。但し、貴方のお子さんが生まれた時に、祝儀も渡してないので、この場でお渡しします』
そういうと、無造作に200万円を机の上に置いて、無言で事務所から帰って行った。
『マズイな?どうするかな?』
『今から電話して、やっぱりご厚意ありがたく頂きます!なん~ても言えないしな?』
宮尾会長が無言で帰った後、俺は本気でビビッていた。
何分くらい過ぎてであろうか?
会社の電話が鳴った。。。。
誰であろう?
とりあえず、気分転換に誰かと話したいので、電話に出ると、、、、
『この馬鹿野郎!何したんだよ!大親分本気で怒っていたぞ!』
電話の主は、美和であった。美和はこれ以上ない大声で怒鳴っている。
恐らく、宮尾会長に何かの用事で電話し、俺の話題を持ち出したら、話題を切り替えられたか?無言になったのであろう。
宮尾会長が気分を害した時、嫌いな人の話題になった時のクセなので、俺が何か失礼なことをしでかしたのであろう?と美和は考えたのである。
ビビッている俺に、この美和からの電話はダメ押しに近いものであった。
『実は…』
子供のように、美和に事情を説明すると、、
美和は、あきれたように言う。
『ん~、タケシ…悪いことは言わないから。アンタに堅気は無理だわ。もう一回懲役行って、自分を見つめなおして今後の人生を考えてみれば?“私だけは”待っててあげるから…』