浅田太郎の妄想小説 -3ページ目

浅田太郎の妄想小説

小説 “破滅への道”

『せっかく堅気として生涯生きていくと決めた割には、なんか元気なかですね?』


宮尾会長は、冗談ぽく笑顔で話しかけているけど、この10畳あまりのワンルーム会社事務所を見れば、事業がうまくいっていないことは理解できるであろう。


自分を信じて、ヤクザ社会を飛び出したけど、何事もサッパリうまくいかず、呆然と宮尾会長の目の前に座っている自分が恥ずかしかった。


『まぁ、山中さん。何事も順風満帆なんてことは、なかですから、性根据えていかんですか。それとですね、事業があって御力添えは、あまりできんですけど、これで少しは事業資金のお役に立ててくれんですか?』


宮尾会長は、自らが持参してきた紙袋を無造作にテーブルの上に置いた。


恐る恐る、上から中身をチラミしてみると、1千万円のブロック何個かが無造作へ入ってた。


紙袋の半分くらいの札束だから、金額にして5000万円くらいは入っていることが想像できる。


涙が出るほど嬉しかった。


これだけの資金があれば、事業も軌道に乗せることが出来るであろう。。。



『すみません。会長。ご厚意に甘えることはできません。どんなに苦労しても必ず自力で這い上がってみます』


喉から手が出るほど、事業資金が欲しかった。


宮尾会長は他のヤクザと違い、資金を出すことで、今後俺が事業に成功したとしても、上前をカスメ取るようなセコイことなしないことはないであろう。


だが、ヤクザマネーを資金として事業を成功させても、『堅気』として生きる決断をしたことに矛盾が生じるのではないか?


そんなことをが、咄嗟に頭をよぎったと思ったら、意識もなくその場で深々と土下座をして、宮尾会長のありがたい厚意をお断りした言葉がでた。


顔を上げるのが怖かった。


宮尾会長と目を合わすことが、、、、


沈黙が続く。。。


何分くらいの間だったであろうか。。。


『山中さん。解りましたから。そんなところ座っていないで、こちら座ってください』


言われるがまま、椅子に座りなおそうと立ち上がりながら、宮尾会長の顔をチラ見すると、、、、


その場で、切り殺されそうな鷹のような目で、俺を見つめている。。


余計なこと言わないで、黙って厚意に甘えておけばよかったな?


何秒間前の決意から一転し、お断りしたことに猛省するのである。


『まぁ、いいでしょ?そんな固い決意があるならば。。。では、自力で頑張ってください。但し、貴方のお子さんが生まれた時に、祝儀も渡してないので、この場でお渡しします』


そういうと、無造作に200万円を机の上に置いて、無言で事務所から帰って行った。


『マズイな?どうするかな?』


『今から電話して、やっぱりご厚意ありがたく頂きます!なん~ても言えないしな?』


宮尾会長が無言で帰った後、俺は本気でビビッていた。


何分くらい過ぎてであろうか?


会社の電話が鳴った。。。。


誰であろう?


とりあえず、気分転換に誰かと話したいので、電話に出ると、、、、


『この馬鹿野郎!何したんだよ!大親分本気で怒っていたぞ!』


電話の主は、美和であった。美和はこれ以上ない大声で怒鳴っている。


恐らく、宮尾会長に何かの用事で電話し、俺の話題を持ち出したら、話題を切り替えられたか?無言になったのであろう。


宮尾会長が気分を害した時、嫌いな人の話題になった時のクセなので、俺が何か失礼なことをしでかしたのであろう?と美和は考えたのである。


ビビッている俺に、この美和からの電話はダメ押しに近いものであった。


『実は…』


子供のように、美和に事情を説明すると、、


美和は、あきれたように言う。


『ん~、タケシ…悪いことは言わないから。アンタに堅気は無理だわ。もう一回懲役行って、自分を見つめなおして今後の人生を考えてみれば?“私だけは”待っててあげるから…』












『はぁ~、全くどうなってんだろう?』



美和の襲撃から、2週間が過ぎ、相変わらずワンルームの狭い会社で、独りぼんやり過ごす日々が続いていた。


まるで、刑務所の懲罰房にでも入れられているようである。


近頃では、取り引き会社はじめ、居候先の主、真紀子にもすっかり見放され、


全く話し相手がいないので、独り言で愚痴ばかり言うようになっていた。。。


『今日は、もう真紀子も店に行った時間だし帰るか?』


半年も居候をしていると、さすがに居候先にも居づらいので、真紀子のいない時間を見計らって、泥棒のように帰宅し、まだ真紀子が寝ている時間に、コッソと用もない会社へ閉じこもるのが日常であった。


『いつまでも、こんな生活できないしな~。いっその事、真美の田舎にでも帰ろうかな?…でも、真紀子の借金あるしな~』


後片付けして、帰ろうとしたときに、マンションの入り口に設置してあるチャイムが鳴った。


はて、こんな時間に誰であろう?


古いマンションなので、当然のことながらテレビカメラなどない。


少々、不審に思ったけど、インターホンで対応することにした。。。


『山中さんの会社でしょうか?九州の宮尾です』



突然、府中刑務所よりお世話になっている、九州の大親分が一人で会社へやってきた。


『いや~、山中さん。久ぶりじゃなかですか?元気しよっとですか?』


宮尾会長にお会いするのも、半年ぶり以上でないであろうか?


以前、ヤクザ時代に行き詰まりを感じた時など、たまにお会いする宮尾会長の漫然の笑みを見るだけで、気分が爽快になった。


やはり、『大親分』という人は、凡人とは異なる不思議な魅力があるものである。


何事もないように漫然の笑みを浮かべて、狭い会社へ訪れた宮尾会長は、自分の家にでも帰ってきたように、くつろぎながら事務椅子に座り、俺が出したペットボトルのお茶を飲んでいた。


もちろん、美和から居場所や状況を聞いて来たことは想定できるので、


『よく場所が、わかりましたね?』


と聞くこともないが、聞いたところで、


『蛇の道は蛇ですたいね!』


と、宮尾会長が答えることもないであろう?


『すみません。こんな見苦しい服装で。それに全くお構いもできませんで』


いつものように、俺の服装は、ヨレヨレのトレーナーにメンパン、しかも頭はボサボサで無精ひげを蓄えている。


流石に失礼だと思って、一言お詫びしたのだが、


『なにを言うとるのですか?刑務所の汗臭い服着て、一緒に過ごした仲じゃなかですか?水臭いこと言わんでください』


と、漫然の笑顔を崩さず、気にしてないような手を振りながら答えていた。


『どうですか?山中さん。堅気の生活は?』


『はい。せっかく手にいてたチャンスですから、これから世界に通用する会社を創るつもりです』


と、自信を持って答えたいところであるが、現況や“今後の見通し”も全くないので、返答することが出来ない。


『頑張ります』


蚊の鳴くような声で、こう答えるのが精いっぱいであった。。。






この世の終わりのような表情を浮かべ、美和は黙って聞いていたのだが、


『で、、、、幾らヤリマンから借りているんだ?』


最後まで話を聞くこともなく口を挟んだ。何時でも最後まで人の話を聞いて判断する美和には珍しいことであった。


『ん?まぁ300万円イカナイくらいかな?それに今まで世話になっているのを考えると、100万くらいつけてあげないと・・・』


『いい加減にしろ!この馬鹿野郎!300万円ポッチの金で、何でお前が奴隷のような生活しなきゃいけないんだよ!そんな端金なら今すぐヤリマンに返して来いよ!ほら、これだけあれば500万円くらいになるんだよ!え!金利も含めて早く返して来いよ!』


美和は、半狂乱になって身に着けている指輪や時計、はたまたハンドバックから財布を取り出し、全てを俺に投げつけた。


なすすべもなく、俺は黙って聞いていた。


『なんで・・・何でなんだよ。タケシ・・・お前本当にどうしちゃったんだよ・・・』


20年前に出会ってから、初めて美和の涙を見た。


なんて馬鹿な事をしたんだろう。。。


何でこんな成っちまったんだろう。。。


どこで人生間違えたんだろう。。。


美和の涙を見て、激しいジレンマに襲われた。


『美和。本当にすまない。だけど、この借金だけは、自分の力で返済したいんだ。どんな事があっても。誰の力も借りないで、自分の働いた金で。近頃な、ヤクザやって毎日馬鹿やってた頃が楽しかったなって、半分後悔してるけど、俺は一生ヤクザには戻らん。だからといって今後どうなるかも解らん。お前や真実には半端なことしたって猛省してるけど、今すぐどうなるのか?って答えを出すことはできないけど、絶対にキチンとした形だけは付けるつもりだから・・・』


美和の泣き崩れる姿を見ていると、身を切られるような辛い気持ちになる。


『そう。お前がそういう考えがあるなら、今何をいっても仕方ないな?』


泣き止んだ美和は、今度は呆れた顔をしていう。


『まあ関西の連中がタケシはもう無理だ立ち直れないって言ってたから、お前のコジキになった姿を見て笑ってやろうかと思ったけど、まだ少しは昔の性根が残ってるんで安心したよ。しかしお前がヤリマンに惚れ抜いている訳でもなさそうだし、今になったって300万円くらい借金ならどうにでもなるのに、何でそんなに“働いて返済する”ってことに固辞するんだい?』


『それは、事業資金として真紀子に借りた金だからだよ。だからヤクザな金で返済しないで、ちゃんと汗水働いた金で返そうと決めたんだよ。まあ“絆”って言えばかっこいいかな?』


『馬鹿だね?金なんて汗水流した金が綺麗な金じゃないし・・・それにヤリマンだって、そういう金を求めてないと思うよ。“絆”って思っているのもお前だけじゃないのか?ヤリマンとどんな結末になるのやら?まあ私も近頃お店が忙しいし、少し長い目で見てやるから、ケジメだけはきちんとつけなよ!』


機嫌が少し直ったのか?人を食ったように、化粧を直しながら言う。


化粧が治ったのか、髪の毛を手で撫でながら立ち上がり帰る準備をする美和。


『じゃあ、今日の所は帰るけど、この事務所じゃ人目に付きやすいから安心できないと思うよ。結構お前のことを恨んでいる奴が多いから用心しなよ。』


『ミンナが言うようにお前が本当のヘタレに成り下がって、私に金の無心でもしようものなら、別れるつもりで今日は来たんだ。だけど、また当分付やってやるから、少しはまともな生活を送れるよう頑張れよ!』


『それと、今後、私以外の女を作った時や連絡を途絶えることがあった時には、お前の今までの犯罪を全て警察にチンコロしてやるから。私も当然、捕まると思うけど“地獄まで一緒”と決めてお前と20年付合ってやってやったんだ。私を粗末に

するような事する時には、お前も腹くくっとけよ。』


何時も様にマシンガントークを発散して、美和は会社を後にした。


『そうか?その手があったか?あの時ウソでも良いから美和に借金申し込めば、あのババアとも今日でオサラバ出来たのか?』


美和のマシンガントークを思い出して、誰もいない会社独り笑いう転げるのである。