瞬く間に、ヤクザ者に囲まれていた。。。
暗がりに集まった者たちの顔を確認すると、俺がいた2代目山崎組の末端組員数人の顔が確認できたが、他の者は初めて見る顔である。
『すみませんでした!』
などと、弱音を吐くものであれば、即座に袋叩きに合うところであろうが、周囲を囲む者たちは、罵声が飛ぶだけで、殴りかかってくるわけでもない。
破門の俺を追いかけるようでは、、、
と、いうより、“田代に呼ばれて来た者たち”では、所詮こんなものであろう?
『あ~なんで、何時もこうなんだよ!俺の人生は!パトカーでも来ないかな?待てよ?背中の石垣を一発で登れれば逃げ切れるかな?』
頭の中では、アレヨコレよ、この場の打開策がクルクルと回っていたが、逃げる気配を悟られては絶対ダメだということは、過去の経験上百も承知である。
『で?お前ら何しに来たんだ?』
俺は、思いっきり余裕を持て問いただしてみた。
案の定、誰も返答する者はいない。。。
『チャンスだな?』
頭の中で、この場を逃げれるようなワクワク感が湧いてきた。
ゆっくり歩きだすと、周囲を囲っている者たちが、人ひとり通れるだけの隙間を開けた。
『もうすぐだ。ゆっくり歩いて、ゆっくり、落ち着いてな』
自分に言い聞かせ、ゆっくりとヤクザの群れの方へ歩く。
『よし、よし、あとちょっとだ』
『おい!何やってんだ!タケシを捕まえろ!』
背後から、田代が叫んだ。
すると、周囲の者たちは、我に返ったように俺の前に立ち憚った。
『そんな甘くないか?』
またもや、周囲を囲まれていた。
『おい!タケシ!今日は絶対許さいと言ったじゃないか!』
『イチイチうるせーんだよ!お前は!大体こんな面倒くさい事態作りやがって!』
数分前、逃げることばかり考えていたが、田代のセリフにカチンときて頭に血が上ると同時に俺は田代の顔面を力いっぱい殴った。
『もう終わりだな?この先もロクな事なさそうだし、もうどうなっても良いか?』
と思った。
周囲の者たちは、ピクリとの動く気配もないが、今にも飛び掛かってきそうな雰囲気である。
対峙する俺との間では、緊張感が漂う。。。
そんな緊張感の中、誰かの電話が鳴った。
『はい!あ、ご苦労様です!』
対応したヤクザの口調から、その者の兄貴分や組の幹部クラスからの電話であることは想像できる。
『はい、はい、はい、山中は目の前にいます!』
背筋をピンと伸ばして、電話の応対をしていたヤクザは、携帯電話片手に俺の前にやってきた。
『く、組長からだ』
ビビりながら、電話を俺に手渡したものは、俺がヤクザを辞める前に山崎組に入ったばかりの、部屋住みの若い衆であった。
なんだか嫌な予感である。。。。
『タケシか?なんんで東京にいるんだよ?俺との約束じゃないか?とにかくこの場は、俺が何とかするから、お前も生意気な口を利かないで、早く東京から出ていけよ』
電話の主は思った通り、2代目山崎組組長の三木雅夫であった。
半年ぶりに聞く、三木雅夫の声に懐かしさが込み上げてくる。
三木は、罵声を浴びせるわけでもなく、俺が周囲に囲まれている現況に
『参った』
と、言わんばかりに困ったように話していた。
組から離れても、俺を心配してくれている事が痛いほど理解できる。
三木は田代と電話に代わるよう若い衆へ命令し、田代や他の者が“シブシブ”俺を開放することに同意し、1時間も経過したのち、無傷で俺は難を逃れたのである。
明け方。
真紀子の部屋周辺のコンビニで、なけなしの金で缶ビール2本を買って、近くのベンチで呑んだ。
『パ~、やっぱ、久々のビールはうまいな!』
久しぶりの緊張のせいか、缶ビールがこの上なくウマい。
『さてと、会社の住所はバレたから会社へも行けないし、明日から何するかな?』
昨今、真紀子の部屋への居候生活も居心地が悪いので、用もないのに会社でヒマつぶしをしてたが、組関係者に居場所もバレタので、行くところもない。
『借金だけ片づければ、自由になるから早くサイト販売して2、300の小銭集めるか?』
と、呑気に考えていたのだが、明くる日には匠一家から、『関東所払い』の再通知が全国のヤクザへ送付されるとは知る由もなかった。
この、『所払い再通知』が原因で、この後、6度襲撃を食らうとは、夢にも思わなかったことである。