破門・関東所払い⑧ | 浅田太郎の妄想小説

浅田太郎の妄想小説

小説 “破滅への道”

「いいかオメーら!指を詰めたくなかったら、その出刃で諸沢と池本殺して来い!」

匠一家本部事務所に到着した俺は、玉村組の池本が訪れたときに事務所に居合わせた者を全員呼び出しヤキを入れた。

ヤクザは所詮「暴力」だけが支配するのである。

古くは任侠という言葉が残っているが、俺の知る限りヤクザは「暴力団」である。

筋道をきちんと通していても、相手に対抗できる「力」がなければ話にならない。

逆に、道を外した話でも組織に力さえあれば「筋」など関係ないのである。

今のヤクザは「勝てば正義」なのである。


「どっちにするか早く決めろ!」

出刃包丁を前に正座して躊躇っている若い衆の前で、偉そうにソファーに座っている俺。

「タケシ。何をしているんだ。ちょっとこっち来い!」

大声で怒鳴り散らしているときに北川若頭が事務所に入って、事務所の2階に俺を連れて行った。


「何ですか?さっきは何の事も知らされていない俺に、アレコレ文句を言っていたじゃないですか?下に居る奴らが事務所に居た“当事者”ですよ。俺も本部に来て、奴らケジメで指の一本でも落としているかと思ったら、顔にアザ一つ作っていない。そんな甘い教育をしているから、他所に乗り込まれるようなナメられた事務所になるんですよ。この件は、一度白紙に戻して諸沢達を破門にしてください。それで玉村が断るんだったら、もう一度喧嘩したら良いでしょ?俺は絶対に今回の件了承しませんよ!」

俺には北川に対し多少の“甘え”があったかも知れない。また北川だったら俺や今回の件で不満に思っている若い衆と同様の気持ちを持ってくれていると思っていた。


「タケシ。一度終わった話を蒸し返すことはどう言う事なのか解るな?」

「解っているから“喧嘩しよう”と言っているんですよ」

俺もこの件は、親分に聞かないと判断は出来ない。親分の了承を得るまで少し待ってくれ。

ヤクザとして俺の言っる事は間違いではないと自負をしていた。

恐らく北川も俺以上にハラワタが煮えくり返るような思いをして居るであろう。


だが、総長が判断をしたことを“白紙に戻す”と言う事がどういう意味を持っているか?若頭としての立場を考えると・・・北川は困った顔をしていた。


俺が北川と2階で話していると、誰が呼んだか本部には幹部ご一統さんが駆けつけてきた。

本部長の三木は当然のこととして、中には今回の一方の当事者の森木の顔もある。

「おい森木!お前が発端でこんな話になったんだ!お前自分で玉村組に行ってケジメを取って来い!」

気が治まらない俺は森木を見るなり怒鳴った。


「お前は、どうしてトラブルを起こそうとするんだ。一度話が終わっているのだぞ」

こういう場面では、匠一家内でも同じ組に所属している組長と若頭という関係上、三木が俺の説得に当たるのが常である。

俺自体が三木を苦手としているのを皆知っているからである。だがこの時は違っていた。

「いや、それは“俺を除く”皆さんが勝手に決めたことでしょうが?相手には“幹部一同”で承諾したことになっているわけでしょ?私も幹部の一員として、この件に反対して居るんですよ。だいたいこんな話を俺は聞いていないんですよ・・・・・・・・」

普段はロクに事務所には顔をださいな俺の講釈を幹部一同は、困り果てた顔をして無言で聞いていた。


「いい加減にしろよ。終わった話をお前がトヤカク言っても、これは親分以下ここに居る全員が承諾しているんだよ。お前の一意見など関係ないんだ!」

黙って俺の講釈を聞いていた幹部一同であるが、1時間に及ぶ俺の主張に痺れを切らしたのか、三木が突然吼えた。

いつもの事であるので、気にせず主張を続ける。

そんな折、幹部一同が集まる部屋に今後は近藤が入ってきた。


「まだ、やっているのかよ。いい加減にしろよ。タケシよ、お前どんな権限があって“白紙にしろ”って言っているんだよ。親の俺が決めたことじゃないか?え、ここに居る全員が決定したことじゃないか?お前一人が反対したって“関係ない”んだよ。それが解ったら、さっさとミンナに詫びて下で当番でもしていろよ!」

ヤクザの土曜日は、愛人宅から本宅に帰るものが多い。

ご多忙にもれず、近藤も土曜日は神奈川県の本宅に帰るので、よっぽどのことが無い限り事務所には寄らない。

だが本部で一大事とばかりに総長自ら顔を出さないといけない状況に機嫌が悪く、俺を見かけるなり“頭を押さえつけ”終わりにしようとしたのだ。


「そうですか?私には“関係ない”ですか?だったら私が幹部会に出席する“意味”など無いですね?本日のこの場限りで私は幹部の席を下ろさせてもらいますよ」

近藤の苦虫を潰した顔を見ると、現在までの嫌な思いが頭を過ぎる。


不貞腐れて、席を立つと近藤が続けて言う。

「お前何か勘違いしていないか?普段はロクに事務所にも義理場にも来ないお前が、こういう時にシャシャリ出てきやがって」

近藤が激怒している。場に居る幹部一同の顔は引きつっている。


「だったら、親分の命令どおり下に行って当番でもしときますがね、今後は私が“シャシャリでない”ように、皆さんで他団体にナメられないよう磐石な体制を考えたらいかがですか?私もインターネットの仕事が忙しいので、皆さんがキチンとしてくれましたら仕事に専念できるんですよ。ね、皆さん」

堪えきれなくなった近藤が吼えた

「テメー、ここに居る幹部に、匠一家全員に喧嘩売っているのか!」