狂い始める歯車 | 浅田太郎の妄想小説

浅田太郎の妄想小説

小説 “破滅への道”

おい!岩城を殴ったのは誰なんだ!正直に言え!

マルボウの怒鳴り声が二日酔いの頭に響く。

酒が未だ抜けない取調室では俺の酒臭い体臭が充満している。


岩城の事件は、借金を苦に逃走した岩城を山崎組組員が拉致、散々殴られたあげく、便利屋事務所へ監禁し、岩城が所持していた財布から俺が金を抜き取ったというものであった。


事件に関与している者の中で岩城と面識のあるものは俺だけである。

だから刑事が逮捕状をとって捕まえた者は俺1人であったが、実際に岩城を拉致して殴った者を捕まえないと事件の辻褄が合わなくなるから、殴った者の名前を言えというのが警察の言い分であった。


だが、この事件は関西連合の竹下という極道が関与している為、俺はすぐに釈放されると思っていたから無駄な逮捕者を出すより、“共犯を否認”して20日くらい我慢しようと言うのが俺の考えだ。


自供を促す刑事と俺の取調べはずっと平行線のままであるから、自然に刑事の取調べは力が入るものになる。。。。



一昔前と違い、刑事の取り調べも一昼夜行うこともなくなり、夕方になると留置場に戻されることになる。

景気が低迷すると犯罪が多発すると言うが、この平成12年暮れ近くなると、留置場は慢性定員オーバーで通常4名定員の各舎房に6名寝ると言う凄まじく“うっとうしい”生活を強いられていた。


娑婆の生活と全く逆に、俺は空いた時間を利用して1人静かに読書に明け暮れる。

留置場の本棚に誰の持ち物か知らないが《お~い竜馬》という漫画が全巻揃っていた。

今まで様々なジャンルの本を読んではいたが、唯一歴史本にだけは興味がなかった俺は、坂本竜馬という名前は知っていたものの、この人物が具体的に何を行って歴史上に名前を残したかは不明であった。


漫画ということもあり、《お~い竜馬》は読みやすかった。

当時の俺と同年代で暗殺された竜馬を比べてみると何だか留置場で燻っている自分が恥ずかしくなる。


もっと頑張らないと!

無事釈放されたら気を引き締め物事に当たろうと自分に言い聞かせるのであった。。。。


拘留生活も10日を過ぎると、雲行きが怪しくなる。

接見禁止(面会不可)と言うこともあり、3日に1度弁護士が外への連絡取次ぎと事件の進行具合の打ち合わせに訪れるが、竹下が連絡を途絶えたと言うのだ。

連絡の途絶えた竹下の事を弁護士は山崎組に伝えるのだあるが、『解った』という返事があるだけで、その後も竹下及び山崎組の誰からも弁護士のところへ連絡がないという。


山中さん。暢気に構えていると懲役に行かなくてはならなくなりますよ。

奥さん(真実)も心配して毎日連絡を貰いますが、ヤクザのことは私には出来ませんから組の人たちが動いてくれないことにはどうにも出来ません。

弁護士は真面目な顔をして俺にいう。


先生のお話はよく解りました。

ですが、私がここに居たのでは何も出来ませんから、ご面倒をおかけしますが、組長の三木にこの状況をお話していただけませんか?

社会の状況を聞かされ、不安になったが実際どうすることも出来ない。

無駄なことかも知れないが、三木始め組の者に竹下と連絡を取ってもらい、事件をもみ消してもらう他に方法がなかった。。。。



いい加減にしろよ!兄貴分のお前が出頭してきて、若い衆が娑婆にいるだと。

マルボウをなめんじゃねー!誰なんだ!お前の前に岩城を連れてきた奴はえー!

その後も刑事の取調べでは、そんな根回しをしているなど露も感じさせないような厳しいものになってきた。

俺の自宅マンションには警察からの嫌がらせで毎日ガサ入れ(家宅捜査)があるという。こういう経験のない真実は精神的に衰弱しているという。


何やってんだあいつ等!

その後も進まない社会の状況に腹立たしくなり、夜も眠れない日々が続く。


拘留されてから15日が過ぎ、いよいよ取り調べも大詰になってきた。


タケシ!お前明後日には検事のところへ呼ばれるぞ!このままだったら間違えなく懲役だ!こんな下らない事件で3年は行くぞ!いいのか?

取調べの刑事は半場情け心で説得するようになった。

俺も正直に話して娑婆に出れるなら話したい心境になったが、この場に及んで『実は・・・』など格好悪くて言えるわけないじゃないか?


事件は平行線のまま、結局俺は強盗から『恐喝』と罪名を変えられて起訴されるのである。

起訴の連絡が入ると同時に、本来解かれるはずである接見禁止は再度延長される。


以後接見禁止が解除されるのは、裁判が終わる10ヶ月後の事である。