【嫌い嫌いも好きのうち】

 

8月に入って間もない頃、達哉から連絡があった。

ちょうど休み前で、私は仕事終わりでまっすぐ帰ろうか少し考えていたところだった。

達哉は達哉で、急なキャンセルがあったみたいで暇を持て余していたみたい。あぁ、そんなときにしか私の出番はないのかしらん?

それでも私は急なお誘いが大好き!面倒になってた心が急に踊りだす思い。急いで化粧直しへ向かう。

鏡に映る私は、まだ20代と言ってもいけているんじゃないかしら?肌はもちっと水分十分。つやもある。この際目じりの細かなしわは愛きょうなのだ。

気分さえ乗っていれば、全てがよろし。昨日の晩は、この世の終わりみたいな疲れた顔していたなんて思えない。

そもそも週刊誌発行しているから締め切り前の木曜日はうんざりする程仕事がもりもり。そして迎える金曜日は明日のお休みにわくわくして残りの電池をどうやって使い切ろうかって一生懸命になるってもの。

ちっともオトナになんてなれないんだから、仕方がない。

 

「ハナ抱いてると安心できる」

「褒めてるの?色気がないと言ってるの?」

達哉の鼻先をちょいとつついて、意地悪を言ってみる。

「馬鹿だなぁ」

なんて言いながら私の脇下から両手を差し入れぎゅっと抱きしめる。豊かな胸に顔をうずめて

「気持ちいいからだ……」

と、きっとこれは本音。

錦の寿司屋で落ち合い、きりっと冷えた日本酒を何合かあけて、例によって東急ホテルにチェックインした。一緒にバスタブにつかり、私はいつものように達哉の髪や体を綺麗に優しく洗ってやり、ベッドインした。

セックスは回数を重ねるごとに味わい深くなる。お互いの求めている部分が分かるようになるから。私は優しいお母さんのように接していても、セックスの時、達哉は娼婦を求める事も知っていたから(感じとっていた)大胆に攻める。

キスを交わし首筋から胸へとちゅっちゅっとフレンチなキスをしながら布団にもぐりこむ。達哉の手が私の頭から背中へまわる。達哉の腰をなで、おへそへキスをする。彼のものをそっと手で包み込みふいに咥える。

そのままの体勢で、彼が十分その気になったら上に乗る。

攻めてあげる事が、そんな女の姿が彼を盛り上げる。

やっぱり私は男なのかもしれないなって思うのは、こんな時なのかもしれない。

他の男を抱きながら、時折私は藤野氏を思い出す。

相手が藤野氏であったら、こんな風に自分が上にのって腰を振っていやらしい声を発する事ができるんだろうか?自分が果てるときに、達哉の頭を自分の胸に押しやり、びくんって体を震わせてしまうけれど、藤野氏にできるのかしらん。

そもそも、私は藤野氏との二人暮らしの妄想までしてみたけれど、ベッドルームでのやりとりが一切喝采抜け落ちている位なんだから、プラトニックというのは恐ろしい。

「何考えてる?」

達哉が私の乳首を触りながら意地悪そうな顔で、タバコに火をつけ聞く。

「他の男ん事」

私もうつぶせてタバコを取る。

「俺といながら他の男の事なんて考えるなよ」

なんて言いながら私のタバコに火をつけてくれた。

「そんなつもりもない事いわんとき」

私はありがとうの代わりに頬にちゅっとしながら優しくない事を言う。

「んで、お前は一体何人男がおるんだ?」

「あかん、数えた事ない」

「何だと!!」

ってタバコ持ってるのに腋をしめてくる。

きゃはは。

本音とうわべ、達哉にはないまぜで楽しくオトナぶれるから楽しい。

 

社会的地位もあって、お金もある。

私が付き合っていて楽なのは、その種の男なのかもしれない。

そう、楽なだけでのめりこむような、純情な気持ちになれないのも確かなのだ。

 

小さい鼾をかきながら眠る達哉の横顔と、すべすべした肩をながめながら考える。簡単に手に入れば執着しなくなるって事か……。

一体、私は何を望んでいるんだろう。

 

「ハナ起きてるの?」

寝返りを打った達哉が私を見やり、声かけた。

「うん」

頬笑み返すだけで何も言えない。

そんな私を見て、にっこり優しく頬笑んで

「はよ寝んと。明日しんどいよ」

そう言って私に腕枕してくれる。私は達哉の腕の中で目をつむりながら、今このまま死んでしまったら、まだ後悔するかもなぁなんて考えた。こうしている方がやっぱり私らしいわ、とも。

 

男と女しかいないんだもん。

離婚して私のたがは外れっぱなしなのかもしれない。

抑えられてきた私の中の欲望(イロコイだけじゃなくって)と理性(こっちはイロコイかも)が自由を求めるの。

結婚中は、節操のいい可愛い奥さんで精一杯。旦那はいつも私を独り占め。何から何まで一緒。

私の決定権も自由も全てかじ取りを取られて、我慢しているつもりもなかったけれど、やっぱり我慢だったのかな。

自分の人生を他人になんて任せておけなかった。

これが離婚の理由。

だから、私は結婚という制度に向いていないと判断した。

 

そう、結婚って一つの人間関係の制度なんだと思う。

この時代、いくら女性が仕事を持ち家庭を支えていたとしても、代わりに男性である旦那が子供を産む事はできない。しかるべき時期に、当然のように女性が女性として生まれた以上は、やらなくてはいけない責任が来る。

そして、結婚していると、個人だけの問題ではなく、お互いの家族一族をも巻き込んでゆく。

私たちも何度も

「子供はまだか?」

と、周りにせかされていた。

 

一つの幸せの象徴かもしれない。

結婚をして少しすれば子供を宿り、家庭をつくってゆく。それは男性として、また女性として本能のままに与えられた役割を全うするが如く。

でもそれが全てではない。

少なくとも、夫婦であった私たちにその考えは共通していた。

けれど、私は一人のオンナではいさせてもらえず、彼の永遠の奴隷になったような気がして憂鬱を隠せなくなったもの。

 

結婚制度に幻滅したのは確かではあるけれど、それはパートナー選びを間違えただけなのかもしれないとも思う。だから、結婚そのものを否定しているわけじゃない。

 

だけど、急に求婚されても、また色々考えちゃうでしょう?

 

続く……