日中戦争が急拡大した昭和13年春、銃後犬界も戦時体制へ移行しつつありました。

戦争は短期決戦となる筈であり、皇軍の連戦連勝で浮かれた愛犬家たちは率先して戦争に協力したのです。

しかし戦争は泥沼化。国策への協力を叫んだ愛犬家は、やがて国策によって迫害される側となりました。

翌年には商工省が野犬革(贅澤品の三味線用)を国家の資源として統制下におき、「贅沢は敵だ」をスローガンに掲げる国民精神総動員運動によってペットの飼育が白眼視され、太平洋戦争以降は愛犬家の出征や物資不足によって畜犬団体も次々と活動を休止。昭和19年のペット毛皮献納運動へと至りました。

 

 

春の畜犬季節が近づいて、犬界も次第に色めき立つて來たが、事變下を反映して犬界にも從來と違つた革新的氣分が随所に見られる。それ丈け進取的で活氣横溢が豫想される。

 

第一に帝犬の訓練優勝競技大會が秋を待たずに五月に行はれ、而も從前と違つて軍犬即應の傳令作業のみによつて輸贏が爭はれるのは大英斷と云はねばならぬ。

殊にこれまでは犬本位に授賞され、その犬を訓練した指導者の技倆を何等表彰するところなかつたのに、今回は指導者にも賞を與へることにしたのは、訓練界にとつての最も大きい刺戟と云はねばならぬ。

 

又聞くところによれば、帝犬今年度本部展は廣島に於て開催されるとのことであるが、これも從來屢々非難の的となつた中央偏重の弊の改められた一つの現はれとして、一般犬界人にとつて非常に力強い好印象を與へることであらう。

 

又日本犬の訓練は大阪日本犬協會では既に昨年來實施されてゐるが、日本犬保存會も今年から年次大會を催すことゝなり、日本犬の訓練熱が全國的になつたことも、今年の大きい収穫の一つであらう。

等、等、毎度云ふことであるが、事變は却つて犬界に幸して、恰も大きい飛躍の體勢を着々完へつゝあるが如き觀のあるのは、犬界人にとつて誠に頼母しい限りである。