「犬界よ正しく伸びよ・犬界時事檢討の集ひ」より

 

出席者

帝国軍用犬協会理事 有坂光威騎兵大尉

帝国軍用犬協会副会長 坂本健吉騎兵少将(予備役)

帝国軍用犬協会理事 永田秀吉

エアデール協会理事長 中元銀弘

日本犬保存会理事 平岩米吉

主催 白木正光

 

【犬の基礎學研究】
平岩
話は違ひますが希望を一つ述べさせて頂きたいのです。それは犬の實用化は熱心にやられてゐるが、犬の基礎的研究、それから犬を幸福にしてやるこの研究、かういふことを熱心にやる人が現はれて頂きたい。
有坂
馬の方には軍馬愛護會がある。犬の方にもあつてよい。
白木
費用の捻出が問題。
有坂
フヰラリア研究會(※愛犬を喪った平岩米吉の依頼で帝大板垣四郎教授が発足)は大變結構ですね。あゝいつたものが必要です。
平岩
私が狼を飼つてゐるので、人がグロの尖端だと云ひますが、犬を徹底的にやるには、犬科のものを研究する必要があります。
そんな氣持で狼を始めたのです。
で、犬の基礎的研究ですが、これはもつと徹底的にやる必要があると思ふのです。
いつか有坂氏が譯された獨逸に於ける犬の嗅覺に關する研究(※おそらくコンラード・モストの嗅覚実験)を面白く拝讀しましたが、そんな風に聴覺、習性等へも突つ込んで行きたい。さもないと本當の訓練は出來ません。
有坂
あれは一昨年の萬國畜犬家會議に病氣の部門を設け、資料は各國が送つた報告に基くもので、細部に分けて發表しました。
面白いものでした。
學問的の研究會も必要ですね。かういふものが澤山あればいい。
白木
關西のある著名なブリーダーですが、多數の仔犬を育てた經驗から生れた仔犬の中でよくなるものが判るのですね。そのよくなるもの丈け金をかけて育てゝゐます。
しかしそれまで經験を積んでも、何等記録と云ふものはないのです。あれば益する所が多いのですが。
一體日本人はやることはやるが、記録は取らない。
有坂
日本人は組織的にやることを嫌ふ傾向があります。
平岩
ブリーダーで遺傳學一頁讀まない者もゐます。
白木
では、この邊で。遅くまで有難うございました。
 
もしも戦争が無かったら、日本犬界はどのような進展を遂げたのか。
戦前と戦時の狭間だった、昭和10年の犬界事情を知る上で大変勉強になる資料でした。シェパード、日本犬、エアデール団体以外にも色々な意見があった筈なのに、他団体の欠席が残念。